INTERVIEW
「柴田淳は“女性版スガ シカオ”になりたい」

また、今回のベストアルバムにはインディーズ楽曲である「ピンクの雲」「心がうたうとき」「パズル」が収録されているのも貴重ですね。

柴田:この曲たちってもう廃盤のインディーズ盤にしか入ってないんですけど、それが高額でオークションに出ていたんですよ!もうそのファン心理を利用して弱みにつけこんでいる感じが許せなくて。とはいえ15年以上も前の作品なので、今後リリースするタイミングもないし、オリジナルアルバムに入れたいわけでもなくどうしようか…と思っていた時に「あ、このベストに入れよう!」って。あとは単純に、せっかくベストを作るのであれば、おまけがたくさんあった方が良いかなぁって。だからインディーズ楽曲だけでなく提供曲のセルフカバーも収録しましたね。

セルフカバーはCHEMISTRYさんに詞を提供した「月夜」と中島美嘉さんに詞曲を提供した「声」でしたが、やはりご自身のオリジナル曲を歌うのとは感覚が違いますか?

柴田:全然違うし、とても難しかったですね。以前「COVER 70's」というカバーアルバムも出したんですけど、あの収録曲はもう小さい頃から歌い込んでいる歌だから自分の楽曲より歌いやすいくらいだったんですよ。でも今回は自分で作ったといえども、もうすでに別のアーティストが歌っている曲だから下手に歌えないっていう気持ちが大きくて。アレンジにしても、もっといろんなアプローチの仕方があったんでしょうけど、やっぱり一番最初に発表したものが正解だと思ってしまうので、自分が歌うためにアレンジし直すというのも難しかったですね。歌入れにもかなり時間がかかっちゃいました。後悔しそうだからもう聴けないです(笑)。

その「月夜」も含め、柴田さんの楽曲には“月”や“星”というワードがよく登場しますが、夜に曲作りをすることが多いんですか?

photo_03です。

柴田:その通りです。そんなに「月」を意識しているつもりはないんですけど、「書くネタがない〜」って思った時にふと夜空を見たら月が出ていたり、ふと見たらコーヒーに月が映っていて「月光浴」って楽曲が出来たりとかね。この曲はリクエストの2位だったんですよ。

“コーヒーに月と星を浮かべて 「おいしいね」と笑って 夜空を全部飲み干したら あなたも消えた”って素敵なフレーズですねぇ。

柴田:「あなた消えちゃったの?意味わかんない!」ってなりませんか(笑)?たぶん抽象的な歌詞を書きたい時期だったんでしょうねぇ。ファンの方は想像を膨らまして「これは父と娘の話なのか」とか「恋人を見送る歌なのか」とか「喫茶店で夜、コーヒーを飲み干してふと顔をあげたら、もう相手は去ってしまった後だったのか」とか考えてくださるんですけど…。抽象的に書くと当時どういう思いで書いたか忘れちゃうんですよ(笑)。

では、もう少し“歌詞”のことについてお伺いしていきたいと思います。柴田さんが「歌詞が素敵だなぁ」と思うアーティストを教えてください。

柴田:スガ シカオさん!間違いないですね!あの声もズルイよねぇ。大好きすぎて、どの曲が1番とか選べないんですけど、勝手に私と括りつけて聴いていたのが去年配信でリリースされた「モノラルセカイ」って楽曲なの。その歌詞にね“ぼくの味方”って言葉が出てくるんですよ(※「ぼくの味方」は柴田淳のメジャー1stシングルのタイトル) 。で、この曲ってすごく素敵な恋に出逢ったっていう歌だから、その相手を「これ私のこと♪」と勝手に思って聴いていました(笑)。あと「日曜日の午後」っていう楽曲の情景描写の凄いこと!吐き気を催すような気だるさ、憂鬱さ、退屈さが声にまで出ていて、まさに“日曜日の午後”そのものを歌っているんですよ。その世の中に対してイラついているような、ちょっと冷めた感情も私と重なる部分があるんですよねぇ(笑) 口の周りにミートソースをたくさんつけた女が出てくる歌とかも良かったなぁ(「ミートソース」/スガシカオ)。もうね、スガさん特集組んでほしい。延々と話せる。

今度は、柴田淳×スガシカオ対談にしましょうか(笑)。

柴田:ダメダメダメ!スガさんを目の前にした私を見てごらん(笑)。顔真っ赤にしてモジモジして何もしゃべれないよ。スガさんは、何かあると心配してくださるし、すごく良くしてくださるんですけど、私にとってはもはや神様のような存在だから、私なんかに近寄ってきちゃダメっていう気持ちです。スガさんには人間にならないでいただきたい(笑)。でも前にね、スガさんの片腕のような存在としてあの世界観を何十年と築き上げてきた“森俊之さん”っていうミュージシャンがいるんですけど、その方が私に「女性版スガ シカオだと思う」って言ってくださったんですよ。もう本っ当に嬉しくて、いつか世の中にもそう思われたい。柴田淳は“女性版スガ シカオ”になりたいです。

柴田さんが歌詞を書くときに一番大切にしていることは何ですか?

柴田:嘘をつかないことと、自分で手ごたえを感じるワンフレーズを入れること。あと最近どこかに「毒」を入れたいという思いがあって、それがちょっと快感になってきていますね。

たしかに今回のベストにも収録されている2014年のアルバム収録曲「哀れな女たち」は今までにない温度の歌詞ですね。

photo_03です。

柴田:はい、この曲はまさに“毒”ですね。「哀れな女たち」が今後の私を物語っているかなぁって思います。毒を吐いて毒を制すというか…。ずーっと自分の中に溜まっていた同性に対する鬱憤を描きたかったんですよ。とくにこのアルバムを作っていた時は例のスランプ期だったのでよくネットサーフィンをしていて、そこで女性の書き込みもよく見ていたんです。別に私のことが書かれているわけじゃないんですけど、気分が悪くなるくらいの“嫉妬”が込められた悪口がたくさん並んでいるわけですよ。なんか…こういうドロドロした人たちにグサっと言ってやりたいと思ったの。でも、ただ毒を描いて終わるんじゃなくて、自分自身の毒も認められるようなユーモアを交えたくて。曲を聴いてくれた人が「そうなの、本当は言えなかったけど嫉妬してたの。うらやましかったの」って思えるような、そういう歌をこれからは書いていきたいなぁと思いますねぇ。そうすると、この人ちゃんと見てるんだなぁって、またリスナーの聴き方も変わってくるのかもしれないですよね。

では、柴田さんのこれからの夢を教えてください。

柴田:正直、仕事をしていていいのか?と思っております(笑)。だから夢は“結婚”です(笑)。今後も歌い続けていくにしても、常に変化はしていきたいなぁと思っているので、ファンの方にも楽しんで頂けるように、そして私自身も楽しめるように進んでいけたらなぁと思いますね。

最後に、歌ネットを見ている方にメッセージをお願いします。

柴田:私もたまに「歌ネット」を覗かせていただいてるんですけども、柴田淳の歌詞を検索してもらえていることがまず素直に嬉しいですね。文面で見る歌詞は、曲として聴くのともまた違いますし。歌詞をきっかけに興味を持ってもらえて、さらに曲も聴いてみたいと思っていただけたらこんなに嬉しいことはありません。これからもどんどん検索してほしいと思います。


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