INTERVIEW
「“愛していない”気持ちを隠すという愛もある。」

ベストアルバム「しばづくし」にも、そんな切なすぎるラブソングがたくさん詰まっていますが、今作はファンの方からの楽曲リクエスト投票をもとに選曲されたんですよね。集計結果をみていかがでしたか?

柴田:超マニアックでしたね(笑)。大物アーティストさんのベストであれば、ファンが投票したものが絶対ベストだと思います。でも、ただでさえ柴田淳がマニアックだから、投票してくれている時点でコアなファンなんですよ。その方たちが選りすぐったチャートなので、か〜なり濃くて。「十数えて」や「後ろ姿」の投票数が多かったのも意外でした。でも、このベストアルバムって、今年テレビで柴田淳をはじめて知って「“日本一暗い歌手”ってどういう曲なんだろう?」って興味を持ってくれたご新規さんに手に取ってもらう絶好のチャンスですよね。そういう方々にはハードルが高いんじゃないかなぁという集計結果だったので、収録曲は私の中でのメジャー級な楽曲を少し優先させたりもしました。個人的には「君へ」とか「白い世界」とか「カラフル」とか入れたかったけどなぁ…。

ちなみに“柴田淳的”ベスト3を選ぶとしたらどの楽曲をセレクトしますか?

柴田:え〜…ない(笑)!でも、ズルイ答えを言うとしたら、私には未発表曲で「待合室」という作品があるんですよ。邦画でよくある、雪国の駅の待合室で、ストーブが焚いてあるような世界の歌で。その曲は一部スタッフに聴かせたことがあるくらいで、まったく公表はしていないんです。じゃあなんで発表しないんですか?って話なんですけど、私はこの大事な「待合室」を、音楽人生の保険にしているんです。もう何も作れなくなってしまったとしても、この曲があると思えば安心なんですよ。そしてこの曲を自分のベスト1として保険にしてしまっているから、多分一生リリースはしないと思います(笑)。

最後の切り札のような1曲なんですね。すごく聴いてみたいです。

柴田:もしリリースする日が来るとしたら、それは引退する時でしょうねぇ。あと、病気で声を失ってしまう方もいますよね。そういうニュースってもう他人事じゃなく涙が出てきてしまって…。もし私が15年間大切にしてきたこの声を失くしたら多分、復帰どころか生きていけないと思う。でも、万が一、私にそういうことが起きたとしたら一番最初にやることはこの「待合室」を録音することだなと思っています。

今回のベスト、改めて柴田さんの楽曲を聴いてみると、「後ろ姿」や「Love Letter」など、単なる片想いソングにも失恋ソングにも属さない“付き合っているのに孤独”な楽曲が印象的でした。

photo_02です。

柴田:やっぱり“私を愛していない人”と付き合うっていう実体験からでしょうねぇ。「後ろ姿」の歌詞なんてまさにダメ男との恋愛の象徴でしょ?悪い男だってわかってないわけがないんです。だけど厄介なのが…恋って落ちちゃったら最後なんですよね。「本当はそんな人じゃない」「きっと疲れているからだろう」って相手の冷たい態度をプラスに受け取って、嫌いになりたくないっていう感情が働くからいつまでも抜け出せないんだと思います。あと恋愛に限らず、一緒にいればいるほど寂しい、空しい、っていうのは、私の性格なのかもしれないなぁ。親友でさえわかり合えない部分があったりして、100%合う人はいないんだってことを最近感じています。きっと自分はそれくらい相手に求めちゃっているんでしょうね。あともう…くだらない恋愛はしない!(笑)。

最近の恋愛の仕方は変わってきたんですか?

柴田:スタートをものすごく躊躇します。恋に落ちたら最後なわけだから「本当にいいのかこの人で?本当にいいのか?」って落ちる前に崖っぷちで考えすぎて冷めちゃう、っていうのが増えてきましたね(笑)。だって、好きになっちゃったらもうその人のことで頭いっぱいになりません?ステージ上から、その人がいないかなぁって思って歌ったりとかしますもん(笑)。でも私、もしかしたら今まで一度も本当に好きになった人と両想いになったことがないかもしれない。付き合うまでに行かないジャブばっかなんですよね。もしストレートが決まってドップリ付き合うことになったら、私スタッフとかに何回殴られても「いいよ〜♪」ってヘラヘラしてると思う(笑)。そのくらい大きなことになっちゃいそうだなぁ。

また、個人的には「あなたとの日々」が超名曲だなぁと。“何もかも満たされている私がいる 私がいるんだけど”の「けど」に全てが込められているといいますか、愛されているのに愛せない孤独といいますか…。本当はこう想いながら生きている女性ってたくさんいるような気がします。

柴田:そうなのよ。この主人公は全く相手のことを愛していないんですよね。でもこの曲、男性が聴くと全く違う解釈をしたり、理解できなかったりすることが多いんですって。“もっともっと愛さなくていいこと きっときっとあなたにはわからない”と書いているようにやっぱり男性は愛せば愛すほど伝わると思ってしまっているところがあるんですかね。だからその例として、100本のバラをプレゼントしたら女性は喜ぶ、と思うわけですよ。1本なら伝わらなくても、100本なら伝わるだろうって。たしかに女性は“バラは”好き(笑)。だけど、好きじゃない男の人からもらう100本のバラなんてもう「イヤイヤ逆効果だし!ドン引きだし!」って(笑)。1本だろうと100本だろうと、ダメなものはダメですよねぇ。

0にどんな数字をかけても0なのと一緒ですね(笑)。

柴田:そうそうそれ(笑)!ましてや「あなたとの日々」の女性が結婚しているとしたら、愛されれば愛されるほど“罪悪感”としてそれが日常に積もっていくわけですよね。きっと旦那さんは誠実ですごく良い人だと思うんです。だからこそこんなに良い人を傷つけられない、離婚もできない、せめてこれ以上大事にしないで?その方が私も楽だから…っていう歌なんだよね。“変わりゆく街並みの中で 変わらないあなたの想いを受け止めている 変われない私”はこの罪をずっと背負って生きていくという決意。だからこれは“「愛していない」気持ちを隠すという愛”なんです。あとこの曲はコードの面で、ミュージシャンの方に「このBメロの最後からサビへの転調が素晴らしい!」って絶賛していただいて自信になった1曲でもあるので、私もすごく気に入ってます。

柴田さんの楽曲は、歌詞の内容的にも女性の支持率が高そうですが、男性のファンの方もかなり多いですよね。

photo_02です。

柴田:男性のファンの方は、歌詞のすごく深いところまで研究してくださっている方とかもいらっしゃって、本っ当にありがたいなぁと思います。「なんで男の気持ちがわかるんですか?」と言われたりもするんですけど、たぶん自分の感情にしても男性の感情にしても客観視して書いているからじゃないですかね。2013年の「あなたと見た夢 君のいない朝」ってアルバムなんて超大失恋の真っ只中で作ったので、もはやドキュメンタリーなんですけど(笑)、失恋した10分後に「恋人よ」っていう楽曲を作ったんですよ。泣いている最中に、この動揺も悲しみも感情を今すべて残しておかないとって。あぁ、だから私シンガーソングライターなんだなぁと思いましたね。そういうリアルな感情が、男性の弱い部分にも響くみたいです。

男性寄りの楽曲で言えば、DISC-2のオリジナル楽曲ラストに収録されている「今夜、君の声が聞きたい」や、ベストには入っていませんが「缶ビール」などもいいですよねぇ。

柴田:実は「今夜、君の声が聞きたい」が、リクエスト投稿率ナンバー1だったんですよ!あと「缶ビール」はうちの義兄も大好きな曲です。男性ってちょっとそういうロマンチックなところがあるんですかね。でも私、男の人がビール片手に、ひとりでしっぽりと焼き鳥屋さんとかにいる姿を見ると、素敵だなぁって思っちゃうんですよ。しかもそこに哀愁が漂っていたり、何か抱えてそうだなぁって人、横でこう…いいこいいこしてあげたくなっちゃう(笑)。無理してそうな人が好きなんですよね。だって元気な人って、私が好きじゃなくても大丈夫でしょって思っちゃうんだもん。あ、またダメ男だ。私まだ抜け出せてない(笑)。



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