第98回 フラワーカンパニーズ「深夜高速」
photo_01です。 2004年9月15日発売
 今月はフラワーカンパニーズの「深夜高速」を取り上げる。ジャパニーズ・ロックの“泣ける名曲”として知られているが、確かに歌のクライマックスで繰り返される[生きててよかった]は、誰の胸にもグサリとくる。

歌の作者でありこのバンドのボーカリスト・鈴木圭介の声質も、闇を切り裂き届いてくるみたいなところがあり、より一層、この歌のリアリティに寄与している。

なお、彼のエッセイ集『深夜ポンコツ』のなかに、この作品の誕生にまつわる話も出てくるようだが、当コラムでは歌を受け取った人間なりの推測もふくめ、独自に解釈していくことにしよう。

夜走(よばしり)という時間帯がもたらすもの

 この作品は、楽曲タイトルにもある通り、夜中に高速を走っていく歌である。このような時間帯に移動(または何かを運搬する)ことを夜走(よばしり)というが、これはバンドマンの歌なので、ライブサーキット(次から次へとライブ会場を回ること)の日々を描いたものと解釈できる。

次の会場が遠かったり、または夏フェスのシーズンで次の日の出番が早かったりしたら、ちょっと無理してでもスケジュールの関係で、深夜の移動となる。

歌詞をみてみよう。ヘッドライトは[手前しか照らさない」とある。この時間帯ゆえ対向車はおらず、なので自分たちの車のライトの到達距離が、すなわち“この世の果て”にも感じられる。

彼らは積み込まれた楽器とともに、それなりのスピードで移動はしているものの、道はひたすら単調に続いていくし、ぽっかりこの車だけ宙に浮いてるような、そこだけ時間が停止しているようにも感じられる。そんな時こそ、想いの蓋が開き、様々なことが胸に去来するものである。それを丹念にスケッチしたのが、この作品なのである。

ロック稼業を素直に歌う

 その次に出てくる[壊したいものはない]のだけれど[満足しているわけがない]というのは、端的にロック稼業のことを歌っている。

ロックは体制への反抗を旨とし、良識より頽廃を好み、タナトス(死への憧れ)すら表現領域に加えてみせる一方で、プロのエンターテインメンメントとしての磐石さ、継続性も求められる。この二つは明らかに相容れないものだ。

彼らに限らず、ロックをプロでやるということは、その矛盾から逃れられないのである。そしてこれは、ロック・バンドとしてのキャリアを積んだ、鈴木圭介だからこそ真実味のあるものとして書けたフレーズなのだ。

忌野清志郎からの影響とおぼしき部分

 この歌は、少年でロックに憧れて青年で実際にやり始め、やがて中年へと向かっていく主人公の歌だ。これまでの歩みをふと振り返れば、そこには懺悔の要素も入ってくる。[僕が今までやってきた]以下のところである。ここらへんの雰囲気は、忌野清志郎が作った「君が僕を知ってる」からの影響が垣間見られる。忌野からの影響は、フラワーカンパニーズに限らず、どの日本の後輩ロッカーにも言えることだが。

このあたりに関して、もうひとこと。[忘れられない出来事]を[どこまでも持ってけよ]というのは、今、主人公が夜中に高速を車で飛ばしているという状況を、再び聴き手に喚起させる大切なフレーズだ。

[生きててよかった]は「死ぬなよ」と同義なのか

 最後に“核心部分”に触れて終わることにしよう。冒頭にもチラリと書いた[生きててよかった]だ。歌詞というのは文脈で理解してこそ作者の当初の意図が理解されるわけだが、我々聴き手は、耳に飛び込む印象的な単語だけからも想いを膨らませ、歌を“理解”してしまうことがある。

なのでこの場合も、[生きててよかった]という強い表現が、この歌を聴いた様々な人々に作用する。特に、かなりヘコんでいた人にとっては、「死ぬなよ」と同義語くらい、有り難いものに響く。そう響いて、明日への活力を得た、というのであれば、送り手と受け手との意義ある絆を生み出したと言えるだろう。

ただ、実はこのあと、この歌は[そんな夜を探してる]と続くわけであり、そうなると、状況は違ってくる。[生きててよかった]と想える境地には、いまだ辿り着いておらず、さらに続く[いこうぜ いこうぜ]は、理想郷を目指すためのみんなへの合図と解釈できる。

と、書いておきつつも、既に“生きててよかった”という体験を、この歌の主人公は何度も何度も体験済みだとする説も提出しておこう。[生きててよかった]というのはバンドのライブが上手くいった時のピーク体験(=時間が停まったかのように思え、すべての不安の吹き飛ぶ恍惚を伴う瞬間のこと)だとすると、辻褄が合う。同じライブは二度とできない。ひとつのステージが終われば、また別の場所へ赴く。次のライブも[生きててよかった]と思えるものにしたい。そうやって、ライブ・サーキットは続いていく。ファイナル・ラップはまだまだ先だ。
小貫信昭の名曲!言葉の魔法 Back Number
プロフィール 小貫 信昭  (おぬきのぶあき)

アーティストにインタビューする時は非常に緊張する。マスク同士で行なうのは当然だが、マスクだと結局、伝わりづらいから普段より大きな声にもなり、大きな声は大丈夫なのか…、でもマスクはしてるんだから…、みたいに、頭の両側に別々のフキダシが浮かぶ。ところでフキダシで思いだしたが、先日、とある収録で、今、まさに“来てる”エンターテイナーの方とご一緒させて頂いたのだが、その方のアドリブの振りに、けっこういい感じで対応できた自分を満更でもないなぁと思ったものだった。おそらくアドリブの力は、日頃、ジャズを聴いて培われたものなのだろう(笑)。