第126回 LOVE PSYCHEDELICO「Last Smile」
photo_01です。 2000年11月1日発売
 アーティストのなかには、「歌詞で語られるヒト」と「サウンドで語られるヒト」がいる。今回取り上げさせていただくLOVE PSYCHEDELICOは、どちらかというサウンドで語られがちな人達だ。

オリジナル作品の詞が、英語と日本語のバイリンガルで書かれているのもひとつの要因だ。英語はわれわれ日本人の一般リスナーには、“サウンド”として響くのである。


ボーカルのKUMIとギターのNAOKIは、大学の音楽サークルで出会った。その時、二人が思い描いた音楽の理想は、ビートルズをはじめとする英米のロックに準じるものだった。それをプロになっても妥協せず貫いている、希有な人達でもある。

でも、それだけなら我々は、彼らを「邦楽」とカテゴライズしない。彼らのバイリンガルな詞には、日本語ならではの表現による印象的なフレーズもたくさん登場している。今回は、特にそのあたりに着目しつつ書いていくことにしよう。

「Last Smile」の衝撃は今も…

 彼らがデビューした時、僕はレコード会社の方から試聴用の音源を頂いたが、当初は音のみの提供で、メンバーがどうたらという素性は不明であった。「先入観なく聴いてほしい」ということだった。

それからさほど間をあけず、彼らの楽曲がひっきりなしに街中に流れ始める。その作品「Last Smile」は、これまで誰も解くことのなかった命題が、一夜にして満点解答されたような衝撃でもあった。

命題とは、日本語と英語を、両立させつつ混ぜ合わす方法だ。それがこの曲では、混ざり合うどころか、仲良く手をつないでいたのだ。

日本語と英語が両方使われている歌詞というだけなら珍しくはなかった。ただ、それはたいてい、サビだけ英語にするとか、カタカナ英語の採用とか、セリフ的な独立した形で英語が使われる、というものだった。

それらとは明らかに違っていた。繰り返し書く。ふたつが混ざり合うどころか、仲良く手をつないでいたのだ。

ふたつの言葉を、電車のレールに例えてみる。国が違えば規格が違う。繋げようがなく、車両が通過することは不可能だ。ところが「Last Smile」は、ひとつの線路を形成し、歌という感情を運んでいった。目から鱗というか、まさにそんな感じだったのだ。

順番としては、日本語のあとを英語でしめる(韻をふむ)。でも、英語のみのセンテンスも入ってきて、安易なパターン化は避けられていた。

“きみと”の“と”と“めると”の“め”

 ひとつ、僕が好きな表現を挙げるなら[君とmelt away]だ。英語のほうの意味は、“溶け合って形をなくす”ということなので、これは君へ望む愛の深さを表現している。ちゃんと意味も通じる。

でも大事なのは、意味もそうだが、“きみと”の“と”の口の開き方から“めると”の“め”の口の開きへとスムーズに移行できてることなのだ。

この歌の日本語から英語へのボールのパスは、他の表現においてもよく考えられているのだ。

例えば[運命線からother way]や[戯れの遠目なloser]も同様だ。でも改めて思うけど、[運命線からother way]って最高だ。

手相占いはそりゃ当たるだろうけど、だからって、言いなりっていうのもね。時には手相の呪縛から解き放たれ、other way(別のやりかた)を模索したい。

でもこの口の形の繋がりの良さは、紙の上で生まれたというより、歌いながら作ったが故のもの、なのかもしれない。あくまで想像だが。

[賢しまなメイクでfly]ってどんな跳びかた?

 他に歌ネットにおける人気曲では、「Your Song」も根強い。この作品のなかに、僕が好きな[賢しまなメイクでfly]というフレーズが出てくる。

“賢しい”はそのままなら賢いんだから良い意味だが、“こざかしい”となると悪口にもなる。ちょっと前に流行った“あざとい”とも縁戚関係にある言葉だ。

で、そんなメイクってなると、“こざかしい”寄りのニュアンスも発動する。そこに“fly”と続く。この英単語を“人生における飛躍”みたいな意味に受け取っておくと、この短いフレーズからこんこんと物語が湧き出てくる。そんな、イメージ豊かなフレーズが、そこかしこにあるのが彼らの詞である。

最後に新作からこの歌を

 懐かしい作品中心になってしまったが、最後は彼らのニューアルバム『A revolution』から取り上げたい。初回限定版には配信シングル「Swingin'」と「A revolution」のアナログEPが付属してるそうだが、実に彼ららしい。

取り上げるのはタイトル・ソングの「A revolution」である。このタイトルである以上、歌詞になんらかの主張も含まれると踏んで、聴き始めたのである。

まず印象に残ったのは、悲しみという感情を[腹で笑ってlie]という表現だ。この場合、“腹で笑う”が自己の内部における行動で、いっぽう“lie”は、外へむけてのこと(強がり?)だ。切羽詰まった、やる瀬ない気分が伝わる。

そのあと[Don't let me down]という、ビートルズ発祥でもあるポップ・ソングの常套フレーズがあてがわれている。もちろんラブ・サイケデリコの二人に、KUMIの歌に、どしどし励まされるが、ポップやロックの“歴史そのものに励まされている気分”にもなっていく。

それにしても、この歌が描く“revolution”とはどういうものなのか。それが生まれるのは、いくらビハインドになっても下を向かない気持ち、だろう。最後にこんなフレーズがある。[僕らの世界はbeautiful]。心に縫いつけておきたい言葉だ。ついつい我々は、自分でそれを、雲で隠してしまってるだけなのだ。
小貫信昭の名曲!言葉の魔法 Back Number
近況報告 小貫 信昭  (おぬきのぶあき)

前にも書いたかもしれないが、Roonという音楽ソフトを使い始めて数年経つ。特徴は、ネット・オーディオでありながら究極の音質を追求していることと、作品解説やミュージシャン・クレジットなどの情報を、ソフト側が提供してくれることだ。しかも、ある作品を聴いて、参加しているギターが気になったらクリックすると、その人のリーダー作、他の参加作品などがずらり出てくる。どんどん音楽に接してどんどん知識も増やすことが可能だ。使いこなすには条件があるのだが、これから先も、ずっとRoonは僕の音楽の先生だ。