囁きの海

年の差が 親子ほど
それも 歯止めにならなくて
他人(ひと)の目を避けてアパートを
かってに借りて実家(いえ)を出た
真夏(なつ)の海 ただ激しく
迸(ほとばし)る愛に流れ
黄昏の靴音を
待ちわびて しがみついた
夕月も見ず 潮騒の
音にも耳を貸さず…

三度目の春がゆき
濡れた季節のささやきに
毎日が愛し合うことと
別れ話の繰り返し
走水(はしりみず) 眩(くら)むような
陽炎(かげろう)が燃えたつ朝
なぜかしら もう二度と
逢えないと感じていた
観音崎のバス停で
あなたを見送りつつ…

晩夏(なつ)の海 月日(とき)が過ぎて
世の中が分かりかけて
ひとり来た灯台で
ちぎれゆく雲を見上げ
日傘をたたむ今の私
あなたに似合いますか…
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