晴子と龍平(with むらかみなぎさ)

晴子はちょっと調子悪そうにしてる
上司のことや引っ越しのこととか悩んでる
同期の出産祝いを買う時間 今日はなさそうだな

道挟んで1000円カットから龍平は出てきた
「スーツもそろそろ新しいの買わなきゃなあ」
これでも昔はちょこっと
名の売れたミュージシャンだったよ

そういやこの辺りで昔
永井博の絵を見に行ったっけ

今日は晴子の34歳のバースデイ
自分のことなのにすっかりと忘れてる
骨董通りを急いでる
歳の離れた妹を思ってる

そういやこの辺りで昔
永井博の絵を見に行ったっけ

ふたりは何か思い出しそうで
歩道の真ん中で立ち止まる

ああ 恋をしてた
一生分の恋を
あの頃 ふたり
まるで魔法に
かかったような恋を

あの店どこにあったっけ?と晴子
苦手だったGoogleマップもう使える
そういやあの頃はあの人についていけばよかったしな
その後ろであの店たしかここだったよなと龍平
なんだか懐かしい長く黒い髪の毛に
思わず立ち止まって
思わず声かけてしまいそうになる

ぼくたちは充分おとなになっていた
でもあの時だってもう充分おとなだった

いつだったか きみが頼んだ
クリームソーダの色を覚えてるよ

そうだね ふたりは一緒にいた
たったの5年半だけど
もう2度と訪れはしない
情熱の風の中

ああ 恋をしてた
魔法なんかじゃなくて
怖いものなどなにもなかった
ふたりでいれば

誕生日おめでとうって言えばきみは振り向くだろうな
その時きみが笑ってくれたら
それは魔法だろな
それが魔法だよな
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