しゃくなげ峠

山裾の紅い燈(ひ) 指差す憂(うれ)い顔
あれが 私(あたし)の居たところ
ポツリと洩らした遊女は二十歳
故郷(くに)はどこだと問うのは男
無いのと一緒と答える女
あゝ みちのくの しゃくなげ峠

身の上を語るの 止(よ)そうかお互いに
生まれ在所に居たときも
いゝこと一つもなかったからね
涙堪(こら)えて手を引く男
何(なん)にも云わずに頷く女
あゝ みちのくの しゃくなげ峠

道行は不承知 止(や)めろと 蜩(ひぐらし)が
声を限りに啼くけれど
聞き分けない子の 覚悟の二人
死出の旅路を厭(いと)わぬ男
心を任せて紅差す女
あゝ みちのくの しゃくなげ峠
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