葛飾にバッタを見た

昨日ばったり道端で昔の友達に会った
おまえこのごろどうしているんだ
そう聞かれたのだが
ギターをかかえて毎日をやっているとは
とても言えなかったし
俺もやっと会社でボーナスが
〇拾万円になったんだぞと言われたとき
僕は今だ日本中をぶらぶらしてるとは
とても言えなかったし

おまえ今どこに住んでいるんだ
俺は今 青山のマンションに
住んでいるんだけれど
僕は今だ 柴又のかたむいたアパートに
いるとは とても言えなかったし
一度遊びに来いよ そしたらさ
車で向かえに行ってやるからさ
と言われたとき
僕は今だ ホンダのカブのバイクしか
乗った事がないのに
奴は車に乗っているんだろうかと
シットに頭をくらくらさせながらも
彼の後をついて行くのだった

まあ久しぶりに会ったんだから
飯でもおごってやるよと
高級レストランの前に
連れて行かれたのだが
僕は そうあのフォークとナイフって奴の
使い方をよく知らなかったもので
それにトンカツなんぞ出されると
切りそこなって下へ落すおそれが
十分あったので
それだけならまだましなのだが
僕は下へ落っこったトンカツを拾って
喰べるおそれが十分あったので
悪いけど今日は腹がいっぱいなんだと
腹の虫をなだめるのだった

彼が現実の話をするたびに
僕は顔でただ笑っているだけだった
それじゃまたなと一人でしゃべり
行ってしまう彼に
僕はとっても小さな声で
僕はとっても小さな声で
なるほどおまえの住んでる所には
なるほどおまえの住んでる所には
マンションや車を持つ事が
あたりまえだろうが
おまえの住んでる所には
バッタなんて一匹もいないだろうってね

昨日江戸川を歩いていたら
空はうそみたいにきれいだったし
そして地上には ほら
バッタは遊んでいたし
もしあんたが葛飾にやって来たら
柴又へ来てみるといいよ
マンションも金持ちもいないかわりに
バッタの一匹も見られるかもしれないからさ
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