港宿

別れに差し出す 指先を
汐路(しおじ)に目をやり 噛(か)んだ人
泣けそうな 愛しさに 過ごした夜は
夢を残した 港宿
嗄(か)れた汽笛の 寂しさに
思いあぐねて 女が指を見る

何処(どこ)まで行ったの かもめさん
女は弱いわ 好きになりゃ
思い出に くるまれば 生きられるのね
ひとりつぶやく 港宿
「こんど一緒に 暮らしたい」
思い出すのよ 男のセリフをさ

入り船沖まで 来ていると
誰かのことばに さわぐ胸
人知れず 桟橋に 心をやれば
窓にしぐれの 港宿
楽な人生 似合わない
思いはせては 女が指を見る
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