帰郷

この坂を登りつめると
ふるさとの街が見える
幼ない日の 壊れやすい記憶を
指先で たどってみる
灯りの花が咲き
夜のとばりに 浮かぶ窓
食器のふれる音 夕餉(ゆうげ)の祈り
そこには悲しみさえ
わかち合える人がいる……愛の器に
この坂を登りつめると
ふるさとの街が見える

色あせた時計台の針は
遠い日を回りつづける
年老いた鐘の音は 静かに
うなづき 語りかけるよ
“あれから どこへ行き
どんな世界を見て来たの
大人の目をして 帰って来たね”
私は何も言えず
コートに顔を埋(う)めるだけ……にじむ星空
この坂を登りつめると
ふるさとの街が見える
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