王将一代小春しぐれ 浪曲歌謡篇

紅い灯青い灯通天閣の、此処は浪花の天王寺。
女房子どもを質入れしても、将棋さしたい阿呆なやつ。
貧乏手づまり千日手、それでも惚れてついてゆく、小春、三吉の物語‥‥。

苦労かぞえりゃ 八十一の
桝目に風吹く 路地裏長屋
いまは歩だって いつかはと金
駒を握れば 眸(め)が生きる
そんなあんたに 惚れてます

「小春、ほんまに死ぬ気やったんか?
…‥すまなんだ、わいはほんまに悪い亭主やった。
大阪の素人名人やらおだてられてのぼせていたんや。
もう今日から、一生将棋はささへん。
女房子どもにひもじいめさすようなこと、金輪際しやへん」
「あんた、つろうおっしゃろ。
あれだけ好きで好きでたまらん将棋をやめなはれ言うのが無理や…‥
おさしやす、おさしやす、かましまへんがな。
そのかわり、そのかわり、さすからには日本一の
将棋さしになって欲しい…」「小春……わい、今日から命がけや!」

空を仰いだ三吉の、背に回ってそっと拭く、頬の涙かはた露か、
小春しぐれを誰が知ろ…‥。

女房子どもを 泣かせた罰(ばち)は
あの世でわたしが かわって受ける
さしてください 気のすむように
将棋極道 えやないの
そばに寄り添う 駒がいる

時は流れて幾星霜 天下に坂田の名があがる…‥。

「小春、わい勝ったで…‥
すぐ大阪に帰るさかい、死になや、死になや、死んだらあかんで、小春!」

西の坂田に 東の関根
男の命を 茜に燃やす
たとえ負けよと 日本一の
あんたわたしの 王将と
小春三吉 めおと駒
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