あの夏の蝉しぐれ

戦争は終わったけれど
町に灯りは 灯ったけれど
この世に僕は もういない
記憶の中に 生きるだけ
ただいまと 声に出しても
誰も僕には 気づきはしない
風を 風をみつめて 母だけが
おかえりなさいと つぶやいた

大切な着物を売って
わずかばかりの お米に変えて
戦地に向かう この僕に
おむすびこさえ 持たす母
親よりも 先に死ぬなと
腕をつかんで 何度も言った
動き 動き始めた 汽車を追い
手をふる母が 滲んでく

あれから何年 たっただろう
昭和平成 時代は過ぎて
母さんあなたも もういない
あの夏の あの夏の…蝉しぐれ

少年の心の声を
聴いて私は わが子を想う
平和を守り 生きて行く
子供が笑う あしたへと
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