人情しぐれ ~我孫子屋のお蔦~

ちょいとお待ちよ 一文無しじゃ 利根の川さえ 越せやせぬ
情け我孫子屋 二階の窓辺 身銭(みぜに)包んで
身銭包んで 下ろす帯

『取的さん…泣いてんの! 大きい態して 横綱の卵は泣きべそだネ
こんな 浮草ぐらしの酔いどれ女… どうせろくなもんはないけどネ
さぁ、早く受け取っておくれ
おっ母さんのお墓の前で 土俵入りができるようになるまで
しっかり頑張るんだよ!』

郷里(くに)は越中(えっちゅう) 八尾(やつお)の生れ
二十代半(にじゅうなか)ばで 名はお蔦
取手宿場に 流れて遠く 三味で偲ぶよ
三味で偲ぶよ おっ母さん

『きっとだよ! 立派な関取になっておくれネ いいかい 約束だよ
そうそう 取的さんの名前 まだ聞いてなかったネ
上州駒形の生れで… 茂兵衛?
駒形茂兵衛だネ!いつか番付でその名前を見つけたら お前さんの晴れ姿
一度はかならず観に行くよ!』

おじぎしながら 振り向きながら 胸にかんざし 抱いて行く
今は取的 駒形茂兵衛 出世祈って
出世祈って 茶碗酒

『イョ! 駒形!』
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