母ざんげ

母と言う身を 忘れなければ
果たせぬものやら ご奉公
お家騒動 若君様を
守るためとは 言いながら
わが子にさせる 毒味役

毒は食うなと 叱るが常を
毒と見えたら 食えと言う
倅 千松 許しておくれ
生みの母でも この母を
鬼と呼ばずに 何と呼ぶ 何と呼ぶ

「これ、千松。若君様へお見舞いの御お菓子、
我先に手を出すとは、何たる不調法じゃ」
「申し訳ござりませぬ。あまりに美味しそうなお菓子でござりましたので、
千松が不調法を致しました。乳母君様、何卒千松をお許し下さりませ…」

「おお、千松。よう毒と知りつつ、若君様の身代わりになってくれた。
礼を言います。この通りじゃ。なれど、お家の為とは申せ、幼い命を
最後が最後まで母と呼べず逝ったのか。今一度、可愛い声で
「母様(かかさま)」と、「母様」と呼んで下され。のう、千松」

頑是(がんぜ)無い子に 判りはすまい
忠義という字の 意味などは
親の言い付け 素直に守り
いのち縮めた 子が不憫(ふびん)
血を吐く胸の
血を吐く胸の 母ざんげ
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