空蝉の家

降りしきる蝉しぐれ 今年も暑いと言いながら
住む人もいなくなった 生まれた家を売りにきた
ためらいながら息を飲んで カチャリと鍵を開けたとき
こみあげたものは なんだろう
なつかしさと やるせなさと

命の限りに 蝉が鳴く
命の限りに 生きてきた
昭和の時代が そのままに 残るこの部屋

日に焼けた畳に あぐらをかいて
不意に涙ぐむ 空が青すぎる

ギシギシと音がする 廊下を歩けば台所
朝メシの有り難さも 知らずにいつも食わないで
味噌汁だけは飲みなさいと おふくろの声思い出す
無口なオヤジの 咳ばらい ひとつ
なつかしさと やるせなさと

命を尽くして 蝉が鳴く
命を尽くして 生きてゆく
昭和に生まれた 不器用さ そっとしのんで

庭先に転がる 蝉の抜け殻
そうかこの家も 時の抜け殻か
そうかこの家も 時の抜け殻か
×