さびしいと いま

さびしいと いま
いったろう ひげだらけの
その土塀にぴったり
おしつけた その背の
その すぐうしろで
さびしいと いまいったろう

そこだけが けものの
腹のようにあたたかく
手ばなしの影ばかりが
せつなくおりかさなって
いるあたりで

背なかあわせの 奇妙な
にくしみのあいだで
たしかに さびしいと
いったやつがいて
たしかにそれを聞いた
やつがいるのだ

いった口と
聞いた耳とのあいだで
おもいもかけぬ
フタがもちあがり
冗談のように あつい湯が
ふきこぼれる

あわててとびのくのは
土塀やオレの勝手だが
たしかに さびしいと いったやつがいて
たしかに さびしいと いったやつがいて

たしかにそれを
聞いたやつがいる以上
あのしいの木も とちの木も
日ぐれも みずうみも
そっくりオレのものだ
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