つまさき坂

爪先上がりの坂道で
偶然君と出会ったのは
春の日にしては肌寒く
日射しの頼りない午後の事
うつむき加減に坂を下りて来る君を
僕はもう疾くに立止まり見ていた
ふと目を上げたその顔は
まるで病葉(わくらば)が散るように
微かに揺れた

その場に二人は立ち尽くし
暫くは思い出に迷い込む
再びざわめきが戻って来ると
軽く会釈をして通り過ぎた
擦れ違い様のあるなしのそよ風に
君の香水の芳りが漂う
それはいつでも君からの
便りにそっとさりげなく
添えられていた

随分君も変わったね
薄く口紅も引いてたみたい
お化粧嫌いの君を誰が
そんなに自由に操っているのか
徒らに過ぎる時に戸惑いながら
僕はまだ君の面影に逡巡(ためら)う
足早に行く君の背は
雲に濾(こ)された日の光に
空しく消えた

雲に濾(こ)された日の光に
空しく消えた
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