ヒーロー

ひしゃげた4号車の中に
脚を怪我した君がいた
動けない?大丈夫!
僕が君のそばに来た
微かな声でありがとうと言って
僕の腕で眠った君が
翌朝病院で目覚めたことを
さっき夕刊で知った

“また正義の味方のお手柄だ”
そんな見出しも見飽きたな
僕にはどうしてか昔から
他人にはない力があって
勇者とかヒーローとか
正義の味方とか呼ばれた

粗大な冠に肩が凝って
鳴り止まない取材依頼の電話を
無造作に切り続ける
「どうして他人を助けるんですか?」
以前されたその問いかけに満足な
答えを持っていないから

僕は正しいことをしている
助けた人も幸せなはずだ
そう信じてはいるけど
スッキリはしてないんだ
感謝されれば嬉しいし
認められるのも気持ちいい
そんな僕の満足感のために
他人の命を利用して

疑問にはひとまず蓋をして
空っぽのまま他人を救い
時間は無遠慮に過ぎてって
ある日のニュースで目が覚めた
4号車にいたあの子が
殺人犯として書かれていた

つま先の熱まで慈しんで
掬いあげた君の命が命を
ゴミみたいに踏んだのに
ニュース記事の正義という言葉は
この胸の痛みの責任も取らずに
キラキラと輝いていた

正しさなんて見つからない
でも間違いだなんて信じない

振り付けも知らないまま
舞台に立つ馬鹿な僕らだから
命って言葉もきっと
殺しあって作ったんだ

平等だと笑いあう裏で
必要不要と値踏みして
救うも奪うも自分のため
そんな肉を守るのが僕なら
世界で一番不要な命を
この肋骨が守っている気がする
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