クワガタにチョップしたらタイムスリップした

無機質な空の色
視界に広がる未来都市
のんきなクワガタは肩を這う
ここはどこだろう

愛らしいペットのクワガタと
じゃれていただけなのに何が起きたの
パニックを起こした私は何度も
クワガタにチョップし続けた

「戻れ!戻れ!」と叫びながら
路上で昆虫を襲う私に
現代生け花みたいな髪型の警官が
「そこのリアス式歯並びの君!」と声をかけた

未来人にコンプレックスを指摘された
お前の祖先にいたずらするぞ
平成原人は涙目で訴える
「クワガタにチョップしているだけです!」

「10年前滅びたクワガタだ!」
警官は驚愕を顔に浮かべる
私の話を信じた彼によると
ここは50年後の世界

「この時代の君に会えたら
多分帰る方法がわかるだろう」
彼は粘着質に私の家を調べ出し
訪ねるとそこには私の孫が住んでいた

鮮やかに歯並びが遺伝しちゃっている
二世代経たのに無様に似てる
平成原人は涙目で励ました
「港としては非常に優秀だから!」

「この時代のあなたはここにいます」と
連れて行かれた先は病院
「余命一ヶ月と言われて今日でちょうど
一ヶ月になるんです」

やせ細った老人の顔は
それでも自分だとわかって
未来の自分はこの時を
待っていたかのように喋りだす

「何も言わなくていい
言いたいことはわかってる
今すべて教えれば
きっと今日死ぬ運命さえ
変えられるだろう
でも私が語るのはたった一つ」

「これから君は何度でも
何度も何度も後悔し
何度も何度も傷ついて
何度も何度も泣くだろう
でもその一つ一つ
かみ締めて時が経つほど
いつの日か熱を帯び
手放しがたくなるから

何も知らずに帰りなさい
私はちゃんと幸せだ」

熱を失う老人に
流した涙がクワガタに
触れるや否や瞬いて
いつもの風景に包まれた

まだ青い空の色
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