残菊物語

役者育ちも 芝居じゃ惚れぬ
かけた情に 嘘はない
苦労やつれを 素顔に見せて
あわれ 浪華の 侘び住居

かわい女房と 手を取り合えば
つらい浮世も 花の宿
寒い夜風にゃ 肌よせ合うて
恋し東京を 夢に見る

「お徳、死んじゃいけない。生きてくれ、いつ
までも、いつまでも生きていてくれ。いくらおい
らが出世したって、お前が死んでしまっては、
何がうれしいものか、お前のいない世の中に
は、桧舞台も何もありゃしないんだ。」

泣いちゃなるまい 泣かせちゃならぬ
命かけたが 恋の意地
桧舞台も 一人じゃ踏まぬ
胸におもかげ 抱いて踏む
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