蝉しぐれ ~老いゆくいのち~

外は蝉しぐれ 風が途切れた早い朝
早朝野球を終えた 私を母が待つ
ほら見てご覧 母が空を指差す
遠く青く澄んだ空に浮かぶ ちぎれ雲一つ
目を落とせば 庭に白い花生姜
名前は何かと尋ね 母が歩み寄る
香り届かず 母への思い届かず
いつか母と共に植えし記憶 母にはもう昔
時に母は童になり 時に母に戻る事も
いつも同じ言葉探しながら 昔を語り出す
まるで92年の人生 紐解くように
母に届け母に響け ああ蝉しぐれ
母に届け母に響け ああ蝉しぐれ

目を移せば 遠い空に浮雲
古里離れて暮らす 母が悲しい
母は浮雲 流れゆくちぎれ雲
遠い記憶の狭間を彷徨う 老いた旅人
ああ、蝉しぐれ 母の心に歌えよ
92年の月日を愛でるように
知るや知らずや 一夏の蝉しぐれ
今日も母の心に叫べよ 命ある限り
肩を抱けばいつの間にか 母は娘になりハシャギ
そして幼い日の兄と私を 取り違えてる
まるで92年の歳月 昨日のように
兄を慕う母に届け ああ蝉しぐれ
兄を慕う母に届け ああ蝉しぐれ

時に母は童になり 時に母に戻る事も
いつも同じ言葉探しながら 昔を語り出す
まるで92年の人生 紐解くように
母に届け母に響け ああ蝉しぐれ
母に届け母に響け ああ蝉しぐれ
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