地獄の6年半を経て、「現状を許すこと」ができるようになった。

―― ニューシングル「芽吹くとき」はTVアニメ『上伊那ぼたん、酔へる姿は百合の花』オープニングテーマです。どのようにたどり着いたタイトルでしょうか。

曲ができあがって、いちばん最後につけました。なんとなくずっと“芽が出る”というイメージがあったんですよね。春の風が吹いていて、これから何かが始まるような。そういう具体的な風景に由来しています。

―― TVアニメ『上伊那ぼたん、酔へる姿は百合の花』オープニングテーマとして、「芽吹くとき」を書き下ろす上で、とくに大切にしたことは何ですか?

インタビューカット2
photo by Kazma Kobayashi

アニメサイドの方からのオーダーは一切なく、「自由に書いてください」という感じだったので、好きに書かせていただいて。そのなかで、まずはやっぱり「上伊那ぼたんの歌だな」という印象を持ってほしかったので、<炭酸が抜けるより早いスピードで>など、アニメと結びつくワードを意識しました。あとは、事前にマンガを読ませていただいて、自分と重ね合わせて、共感できる思いを書いていった感じです。

―― とくに印象的だったシーンやセリフはありますか?

歌詞のなかの<季節が進むことをためらわないでね 今までの全てはいつかに繋がるから>というフレーズは、上伊那ぼたんの「季節が進むことを躊躇ってるみたい」というセリフに影響を受けました。秋になったかと思ったら、また暑さが戻ってきて、8月に戻ったみたいだ、みたいなシーンで。いい言葉だなと思って。

あと、<君>が誰に当てはまるかなどは、あまり深く考えなかったのですが、冒頭の<めいっぱい背伸びしてきたけど 君の前じゃ上手くできない>というフレーズは、砺波いぶきの視点で書きましたね。

―― エッセイには、「ある程度の恋愛はし尽くし、20代の自分とは比べものにならないほどに成長した。そんなタイミングで書いたのが今回の新曲だった。」とも書かれていましたね。とくにどのあたりの成長が、この歌に反映されたと思いますか?

「現状を許すこと」が、できるようになったところですね。期待しない。諦める。それって、若い頃はネガティブなことだと思い込んでいました。でも、大人になるにつれて、「もしかしたらものすごくポジティブなことかもしれないな」と考えるようになっていったんです。現状を許せるだけで、ぐっと人間関係が円滑になるというか。そこの成長がいちばん大きいかもしれません。

―― それは、「このひとはそういうひとなんだ」と受け入れるような感覚でしょうか。

そう、受け入れるということなんです。私はわりと、「絶対にこうしたほうがいいのに、なんでやらないんだろう?」とか、「こう言っていたのに、なんで守れないんだろう」とか、ひとりでブチギレて空回りすることが多いタイプでした。でも、それをどんどん手放していったら、どんどん楽になって。期待せず諦めることで、今を愛せることもあるんだなと。

―― そのお話は<最初に望んだ未来とは少し違うけれど 最後はなにもいらない ただそばにいて>というサビや、<もう正解がほしいわけじゃない>というフレーズに通じますね。

まさに。自分に対してもずっと、「現状を許すこと」が、なかなかできなくて。それこそ相手にとっての<正解>を出そうとしたり、相手の望むことに合わせようとしたりで、がんじがらめになってツラい時期があったんですね。それから解放されたとき、「誰かにとって不正解な部分が、そのひとの愛おしい個性だったりする」とようやく気づきました。その気づきがあったからこそ、書けたフレーズだと思います。

―― 牛丸さんは、なぜそれに気づくことができたのでしょうか。

第2弾のエッセイにも少し書いたのですが、本当に長く付き合っていたひとがいて。6年半。その恋愛が本当に地獄だったんです。正解を押し付けてくるタイプのひとだったから。でも、好きだから別れられなくて。

ただ、先ほどもお話したように、私は恋愛のことをリアルタイムでは書きたくないから、歌詞にもできず。その期間に、ただただ死ぬほど自分と向き合ったわけです。その結果、気づくことがたくさんあったのだと思います。そして、その恋が終わってから、すべてを吐き出すように歌詞を書きましたね(笑)。

―― また、今作の収録曲はタイトル曲以外の3曲すべて、TVアニメ『上伊那ぼたん、酔へる姿は百合の花』劇中歌となっています。どのようなイメージで書き下ろされたのでしょうか。

Don’t」は、バンドをやっている子がいて、その子がバンドメンバーとあまりうまくいってなくて迷っている、という物語で使われる曲なんです。だから、私もバンドを始めたばかりの頃の初心に返って書きました。文句ばかり歌っていた、反抗期のようなマインドで(笑)。

Wet」は、張景嵐(チャン・ジンラン)と郡上かなで先輩、ふたりの曲にしました。ふたりの会話のなかに出てきた、「海に行きたい」とか「危険なんて理由にならない」とか、そういうセリフをピックアップしながら歌詞を書いていきましたね。

―― しがないふたり(re-arrange ver.)」はいかがですか?

「しがないふたり」はもともとリアレンジしたいと思っていて、雰囲気がこのアニメに合いそうだったので、提案しました。「芽吹くとき」が、いろいろ経た30代の私が書いた恋愛の曲だとすると、「しがないふたり」は、先ほどお話した地獄の6年半を知る前の、20代前半のときの私が書いたものです。歌詞を読むと、私がシンプルに酷いですよね。言い方とか冷めているし、自己中。当時の彼氏、かわいそうだなと思います。

―― 冒頭の<不安定な彼>というワンフレーズから、どこか俯瞰して相手のことを見ていることが伝わってきます。

私に対して不安を抱いて、グラグラしている彼に対して、「めんどくさいな。ああ、もう終わりだな」と一歩引いて思っている時期というか。<好きって気持ちを忘れないでいれたら 君とだってそもそも出会っていないよ>というフレーズも、「別に私の気持ちはいつだって変わるよ」という冷めた感じですし。

―― 今作にはいろんな時期の牛丸さんが詰まっているんですね。

そう感じます。「芽吹くとき」は、大人になって、キャパが広くなった私。でも、ずっとその状態でいられるわけではなく、“調子いいときの自分”みたいな感じかもしれません。「Wet」のように湿度が高いときもあれば、「Don’t」や「しがないふたり」のときのように、あまり声を大にして言えない感情を抱いているときもある。今は、すべてが本当の自分であるなと思えますね。

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