「僕は誰に救われればいいんだ?」みたいな瞬間もある。

―― 今作『aRange』は、メンバーそれぞれが制作してきた100曲以上のデモの中から、「今、届けたい楽曲」を厳選したそうですね。その選曲の肝となるポイントは何だったのでしょうか。

主に作曲を手掛けている大智と柊生が中心に選曲したんです。僕はわりとロジカルで、言語化できるものを信じるタイプ。でも、彼らは感覚的なところがすごく鋭いタイプ。だから、「なんかいいよね」という気持ちをいちばん信じて選んだのだろうなと感じます。僕としては、「おお!こうなったのか!じゃあ歌詞を書いてみよう」という新鮮な気持ちでした。

―― 実は「なんかいい」という直感こそ大事なときがありますよね。

そうなんですよ。そして、自分のその直感を信じることができるところも大事。柊生は必ず二択で悩むタイプで、大智は一歩引くタイプだから、一体どちらがどうやって前に立って決めているのかわからないけれど(笑)。でも、僕はもう彼らの選択を信じました。これは昔、僕がメンバーに言ったことなのですが、「各々が背負えるようになろう」と。今は作曲やアレンジ、選曲に関しては彼らに任せている部分も大きいですね。

―― アルバムの入り口となる1曲目「ヒーロー」は、作曲がDISH//です。どのように作っていくのでしょうか。

DISH//名義のものは、4人でスタジオに集まって作ることが多いですね。「ヒーロー」はわりと前にデモを作っていて、大事に大事に取っておいた曲なんです。だからこそ、今回のアルバムに入れるか否か迷いましたし、「もっと目立つタイミングで、シングルとして出したほうがいいかもしれない」と、ある種のいやらしい感情にもなりました(笑)。だけど、最終的にリード曲として入れることになり、歌詞を書き切りましたね。

―― <自分より相手のこと 全て救えヒーロー>、これはかなり強いマインドの歌ですよね。

もう『東京卍リベンジャーズ』のマインドですね。というのも、僕は今までにヒーロー的な立ち位置の役を演じることがありました。体を張って、殴られても立ち上がって、誰かを助ける。あと、映画に出るたびに血のりで血だらけ(笑)。『愚か者の身分』も『悪い夏』も『幽☆遊☆白書』も『金子差入店』も。それこそ『東京卍リベンジャーズ』も。

インタビューカット2
photo by Ray Otabe

つまり、痛みや傷とご縁があるんです。しかもそれは、リアルなものとして残ります。たとえば“階段に飛び前転する”とか。すると、僕のなかにも自然と“誰かを救うヒーロー”のような意識が芽生えてきて。音楽でも芝居でも、「どうか誰か救われてくれよ」と祈り続けているところがあります。エンタメをやっている以上は、誰かを救いたい。

―― そのお話を伺うと、より歌詞のなかの「でも、じゃああなたが俯いてしまう日は?ヒーロー。」「でも、ほら傷だらけだよ。止まってくれ。ヒーロー。」というフレーズが刺さります。

自問自答であり、「誰かこれを言ってくれないか」という願いでもありますね。気づけば僕、自分の悩みを誰にも話せなくなっていて。まさに、「僕は誰に救われればいいんだ?」みたいな瞬間もあるというか。でも、それでも明日は来るし、仕事にも行く。

僕には、「自分のために仕事はしない」というポリシーがあって。たとえば、「お金持ちになりたい」みたいな欲などは排除したほうがいい。だから、先ほどお話したように、僕は本当に“他者のために”存在するものなんです。そういう自分自身の決意が詰まっているのが「ヒーロー」の歌詞ですね。

―― だけど、「ヒーロー」の<僕>はものすごく強い意思を持っているからこその、危うさも感じます。他者のために生きすぎて、自分が壊れてしまうんじゃないかなと。

その危うさこそ、僕が描きたかったところかもしれません。これだけ「他者のために」と言っているけれど、結局は僕の人生が豊かじゃないと、誰かに目を向ける心の余白が生まれないじゃないですか。でも、この歌の<僕>はそこに気づいていない。<あなた>を救うことでいっぱいいっぱい。僕自身、ヒーロー的な役を演じたとき、こういう感覚になっていたと思います。『東京卍リベンジャーズ』のタケミチのときはとくに。

―― たしかに、タケミチの姿が見えてくる気がしますね。

正直、歌詞を書いているときにタケミチは浮かんでいました(笑)。タケミチを演じた当時の自分自身の姿も。『東京卍リベンジャーズ』はコロナ禍で何度も現場が止まってしまったのですが、僕は主演だからこそ、「絶対に僕が折れてはいけない」という気持ちが強くて。今思えば、23歳の自分に、「肩の力を入れすぎだよ」って思うけれど。実はそういう実体験も滲み出ている曲ですね。

―― そして、最後には「だからさあなたの番だ、救いたい誰かの手を握ってくれ。」というバトンが聴き手に手渡されます。

生まれながらのヒーローも悪人も存在しなくて。人生のなかで、誰かに救われた経験があるかどうかで、道が分かれていくと思うんです。自分のために生きるのか、他者のために生きるのか。そう考えたとき、僕は“誰かを救う”というバトンを繋いでいってもらえたらいいなと。そして、DISH//の音楽がそのバトンを受け取るきっかけになれたらいいなと。やっぱり祈りですね。僕はこのアルバムで祈ってばかりかもしれない。

―― また、主人公の危うさでいうと、5曲目「死んじゃいないよ」にもどこか「ヒーロー」に通ずるものを感じました。不在の他者によって、なんとか生かされているというか。

僕の人生って、なかなか言葉にするのが難しいのですが、身近に起きた出来事に対していろんなことを考えるんですね。しかも、思い返すと僕は、何度か大切な相手を失ってしまうような役を演じることもありました。『君の膵臓をたべたい』や『君は月夜に光り輝く』とか、それこそ『東京卍リベンジャーズ』もそうですし。だから、死生観というものはずっと僕自身のテーマとしてありました。

ライブのMCでは、「言いすぎかもしれないけれど、10秒後に突然、自分は死んでしまうかもしれない。だからこそ、今この瞬間をどう生きるかが僕のモットーなんです」みたいなことをよく話していて。でも、僕が考え続けてきた死生観をいつか歌でも伝えたかったんです。それをようやく「死んじゃいないよ」で書くことができました。一生、答えの出ないテーマだろうなと思います。

―― 今作は、とくに“生”と“死”にまつわるワードが綴られている収録曲が多いですよね。

たしかにそうかもしれない。僕が今、そういう現在地にいるからかな。ずーっと走り続けてきて、朝ドラ『あんぱん』が終わって、DISH//でもいろいろやって、自分を見つめるということを、自分のためにしてあげなければならないタイミングだなと思います。そういう面が『aRange』の曲たちには反映されていて。とくに「死んじゃいないよ」はいちばん自分向けの歌である気がしますね。

あと、「死んじゃいないよ」で描いている<傷>は、決して悲しいだけのものではなくて。僕は身近なひとが亡くなったとき、勝手に使命感みたいなものを背負う感覚になることがあるんです。そのひとが何を思って、昨日まで生きていたのかはわからない。でも、「よし、あとは任せろ」という気持ちがすごく強くなる。傷があるからこそ、同じところにとどまるのではなく、歩き出そうと思えるというか。

―― <あなた>のために<世界中の棘を全部ください>とまで言ってしまう、ある種の極端さのようなところも、匠海さんらしい歌詞だなと感じました。

おっしゃるとおり。僕はかなり極端なんですよ。もう20年ほど、エンタメという仕事に身を置いている自分が、何をするべきなのか。なぜ、こんな自分がこの世界にいるのか。そう考えたとき、<世界中の棘を全部ください>と思うんです。僕らが背負いますから、見ているひとはどうか楽しく生きてください、と。実際に、これぐらい大それたことを願ってしまっているところはあって。そういう気持ちでこの歌詞を書きましたね。

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