弱さもあなたらしさだ 愛が側にいるだろう?
「でも、じゃああなたが俯いてしまう日は?ヒーロー。」
それでも戦っていくんだ あなただけの為なら 負けないさもっと歌詞を見る
―― 匠海さんが人生でいちばん最初に音楽に心を動かされた記憶というと、何が浮かびますか?
小学生の頃、ジャクソン5のアルバムを買って聴いたときですかね。僕は8歳ぐらいから芸能事務所に所属して、すぐに演技やダンスのレッスンが始まったんです。そして、ダンスグループに入ったのですが、持ち歌がジャクソン5の「I Want You Back」と「Mama's Pearl」で。その曲ばかり聴いていたので、いつの間にか自分も好きになって、アルバムを買ったんですよね。
―― もともとご自身のなかに「何か表現したい」という欲求はありましたか?
いや、まったくありませんでした。もともと水泳とサッカーしかやっていなくて、芸能事務所に入ることを決めたのも、「子どものうちに社会に触れておけば、礼儀や人間性が培われるのではないか」という両親の思いが大きかったんです。でも、やっぱり最初から芝居は好きというか、おもしろいなという感覚があって。オーディションも実験的で楽しかった。そこの合否に悔しさを抱いたことはなかったですね。
―― とにかく好奇心と楽しさで、まずは役者の道に進まれたのですね。
そうですね。やがて、中学1年生のときに出た学園ドラマで、同世代の役者たちに出会って。今思えば恥ずかしくなるような芝居論を、みんなで話し合いながら、作品を一緒に作っていきました。それが、最初に“表現”という仕事を続けていこうと思ったきっかけだったように思います。さらに、その翌年にDISH//が結成されるんです。だから、自分にとってよいタイミングで芝居と音楽が引き上げ合ってくれている感覚がありますね。
―― 学生時代、日記やポエム、歌詞のようなものは書かれていましたか?
高校時代、今思い返すとかなり痛々しいポエムとかをよく書いていました(笑)。あと、本を読むのも好きだったので、自分で小説を書いたりもしていたかな。短編みたいなものでしたけれど。村上春樹さんの桜にまつわる作品に感化されて、「桜の木の下」のようなニュアンスで、病気をテーマにした物語でした。それは完成させたんだっけなぁ…。思い返してみると、作文の課題とかも好きだった気がします。
―― 言葉に惹かれていたのでしょうか。
惹かれていましたし、同時に、「怖いな」とも思っていました。子どもの頃からこの世界の仕事をやっていたこともあって、よくもわるくも“言葉”というものにはずっと敏感であると思います。
―― DISH//の楽曲は、作家さんが手掛けているものもありますが、ここ数年、ほぼ全曲の作詞作曲にメンバーのみなさんが携わっています。自分たちで書くようになった明確なタイミングはあるのでしょうか。
ずっと書きたい気持ちはあったんです。DISH//は軽音部を経て結成されたようなバンドではなかったから、まずは各々がいろんな音楽的な欠片を拾い集めていくことに精一杯で。でも、高校の頃にはもう、「自分たちの作る楽曲で音楽をしようよ」と思っていました。曲づくり合宿も行なって、楽しかったし。ただ、プロの作家さんにいただいた楽曲を歌っていたところから、突然、僕ら高校生が作るチープなものに変わるのも違うなと。
だから、アルバムを出すタイミングで、「1曲だけ自分たちで作りました」みたいな感じでチャレンジしていったんですよね。当時は、まだ演奏もへたくそで、ライブでも数曲しかできない時期で。とにかく必死に練習をしながら、曲作りをしていた高校時代でしたね。バンドの成長とともに、少しずつ自分たちで楽曲を手掛けられるように変わっていった感覚です。
―― ご自身で歌詞を書くことに恐れはありませんでしたか?
怖かったですね。しかも、実際に書いてみると、まだ十数年の自分の人生があまりにもつまらなくて。高校の頃には、もう自分もかなり邦ロック好きだったので、いろんなバンドの曲を聴いていたんです。そういうなかで、「彼らの歌は、シンプルな言葉でもこんなに説得力があるのに、なぜ自分の言葉は薄っぺらいんだろう」とすごく悩みました。それでも、悩み尽くしてなんとか書いたのが、「モノクロ」という楽曲です。そして、「やっぱりすべては人生経験だよな」と思ったんです。自分の感性を切り売りしないと、いい曲は書けない。
そこで“役者”という仕事が活きてきました。役者って、僕ではない人生を歩ませてくれるから。ときには、痛みを味わったり、飢餓状態を知ったり、出産に立ち会ったり。子どもを寝かしつけるために、15分長回しで撮ったこともありました。せっかくそういう経験をしているのだから、それを活かしながら続けていくべきだ、と気づいたんですよね。だから、うまく音楽と役者を両立できるようになっていったのかもしれません。
―― では、何かの役になりきって歌詞を書くこともあるのでしょうか。
それが難しくて。役者って、“僕だけど僕じゃない”んですよね。そして、まさに今作『aRange』には、“僕だけど僕じゃない”曲たちが詰まっているんです。だからこそ、歌詞を書く上で“自分は役者である”と改めて納得する作業が必要だったように思います。それは“自分自身をアレンジしている”ということでもありますし。僕はもうDISH//の北村匠海であるときでさえ、本当の自分とはかけ離れている感覚で。ずっと“役者”なんですよ。
―― “本当の自分”がわからなくなったりはしませんか?
正直、わからなくなるときもあります。ドラマや映画をやりながら、DISH//の仕事も入ってくると、自分でいられる瞬間って、一日を通してベッドのなかぐらいなんですよ。部屋を出て、衣装を着れば、僕はずっと“その役”として現場にいるから。楽屋にも帰らないですし。ここ数年は、どれだけ生活を大事にするか意識するようにもなってきました。
―― 匠海さんが書くDISH//の曲の主人公像は、本当の自分に近いと感じますか?
発信源みたいなものは僕自身かな。自分自身がどういう現在地にいるのか。前を向いているのか、後ろを向いているのか。そこだけは完全にノンフィクションです。あとは、そこに何を着せるか、誰に何を与えたいかを考えていきます。
そういえば最近、知り合いの監督さんと、「映画はドキュメンタリー性を追い求めなければならないし、ドキュメンタリー映画は映画性がないとつまらない」という話をしたんです。それは音楽にも通ずるのかもしれません。劇的な曲もあれば、素朴な曲もあるからこそおもしろいというか。そして、1曲1曲聴きながら、ひとりの人生の歩みを味わえるのが、アルバムなんじゃないかなと思います。
僕は、役ごとに必ずプレイリストを作るんですよ。その役が聴いていそうな曲を想像して、そこからヒントをもらう。同じように、アルバム一枚を通して聴いてもらうことで、ひとりの人間の生き方が伝わるような気がしていて。それはずっと意識していることですね。
―― メンバーのみなさんも、それぞれ歌詞を書かれますが、共有されている“DISH//の核”みたいなものはあるのでしょうか。
どうだろう…、ないかもしれない。たとえば、今作の「泣くもんさ」とかも、柊生ならではの感性なんです。僕からするとこの歌の主人公の<俺>は、ものすごく強い男だなと思います。でも、柊生は「自分の弱さを書いた」と。つまり、それぞれにとっての“強さ”や“弱さ”がまったく違うところにあるんですよね。
だから、メンバーが書いた歌詞を歌うときには、より役を演じる感覚が強いです。柊生に「最近やったこと」とか「考えたこと」とかを聞いて、箇条書きにして、脚本と同じように読み込むというか。まずは自分自身を見つめた上で、柊生という人間と向き合って歌う。そういう面は役でも歌でも通じていますね。
―― ただ、DISH//の楽曲は、どなたが作詞を手掛けていても、誰かを置いてきぼりにしない気がします。必ず他者を見ているから、強引になりすぎない。
ああー、たしかに! 「置いてきぼりにしない」というのは、言ってもらえることが多いかもしれない。それは無意識のうちにDISH//らしさになっていますね。そして、柊生の歌詞を見ていても、“誰か”という対象がくっきり見えるのですが、僕も必ずと言っていいほど他者の存在を書いています。
おそらく本当の自分でいる時間がものすごく少ないからこそ、「自分ひとりでは何も感じられない」とか「ひとりで見ている景色は変わらない」という気持ちが強いんですよ。だから、何をするにも他者がいる。誰かから喜びをもらったり、悲しみをもらったり、そういうことが“生きる営み”というものになっています。他者か。大事だな。僕、他者がいないと、歌は作れないのかもしれません。




