―― 温詞さんはどんなラブソングでも、愛を描いているように思います。あまり恋と愛のすみ分けがないというか。
たしかに言われてみるとそうかもしれません。そこは非常に僕の性質が出ていますね。情けなさにも繋がるのですが、絶対にきらめきの部分だけではいられないんです。「結言」でもそういうことを歌っているんですけど、「出会えてよかった」と思うと同時に「いつか別れが来る」と思ってしまう。常にネガティブな面にも目を向けてしまう。
恋と愛の違いがはっきりわかるひとは、もっとポジティブとネガティブをセパレートできる気がするんですよね。僕はずっとマーブル状態で、どちらも含まれている状態が一貫して変わらないから、常に“愛”という表現をしているんだと思います。
―― 「愛とはこういうものだ」と言い切るわけでもなく、愛のなかに恋も含めいろんな感情が渦巻いていて。

愛なんて大きな化け物だと思うんです。愛すれば愛するほど、むしろ自分のなかの汚いものに気づかされることのほうが多い。「自分と出会っていないそのひとの時代があるんだな」という嫉妬や、「もっと自分だけのものにしたい」という支配欲。「なんて僕は汚い人間なんだろう」と思うことばかりです。でも、だからこそ、「優しく在りたい」という願いも大きくなる。そういうことを生々しく歌にしているから、“キモい”んでしょうね(笑)。
―― 個人的には「ミラーソング」の<バカな僕の鏡越しの愛>という描き方も好きです。冒頭の<鏡の中映る僕は 本当は反対の姿らしい だから仕方ないよな 本当の自分なんて知らない>というフレーズは、まさに今の「自分のなかの汚いものに気づかされる」というお話に通じていますね。
そうなんですよ。本音って、心を許したひとにしか言わないじゃないですか。でも<大嫌いとか もう知らんとか>思ってもいないことも、大切なひとに限って言ってしまう。そうやって愛によって、両極端な言葉が出てしまう矛盾を1曲のなかに入れてあげたいと思って書いたのが、「ミラーソング」で。本音なのかどうか、ということもわかってほしいという、わがままな気持ちも込めていますね。
―― サビで<君>に伝えている思いだけは<ちゃんと裏返して>ほしいですね。
まさに。「あのときあんなこと言わなければ…」という後悔を抱いているひとの救いになってくれたらいいなと思います。さらに、この歌は違う拍子がふたつ重なっていたり、フレーズが鏡になっていたり、いろんな面から感情の裏と表を表現しています。そんな構成も楽しんで聴いてほしいですね。
―― 今作の収録曲で温詞さんがとくに、「このフレーズが書けてよかった」と思うものを教えてください。
「ゆう」の<そんな君の “普通” を彩れますように>ですね。若い頃は、「特別でありたい」と望みがちだったのですが、「“普通”のなかにも特別はある。だからこそ“普通”を肯定したい」と思えるような人間としてのキャパができたのかなと。聴いてくれるみんなの人生の、かけがえのない一瞬一瞬にフォーカスして、彩ることができるような存在としての音楽を書き続けたい。このフレーズを書くことができて、改めてそう感じました。
―― 「ひとりごと」の<奇跡的な当たり前をしよう>というフレーズにも通じますね。
“普通”や“当たり前”の価値に気づくことがいかに大切か、日に日に強く思うんです。「ひとりごと」の歌詞の種になったのは、友人の結婚報告で。「初めて喧嘩をできる相手だったから、結婚しようと思った」と友人が言うんです。僕はその言葉が不思議だったので、さらに深掘りしてみると、「今までなら適当に謝って、流して諦めていたところを、諦めたくないと思えた。自分のことをわかってほしいし、相手のことをわかりたいと思えた」って。
その話を聞いて、まずそこに気づけたことが素晴らしいなと感じたんですよね。喧嘩するような場面って、つい見過ごしてしまいそうじゃないですか。「喧嘩が多いなぁ。別れよう」となってしまう場合も多い。でも、喧嘩をする理由に気づけたから、愛を見つけられたんだなって。そういう些細な積み重ねのなかにある<奇跡的な当たり前>に敏感でありたいし、みんなもそういうものに気づけるひとであってほしいなと思っています。
―― ありがとうございました。最後に、これから挑戦してみたい歌詞はありますか?
まず、今回「ゆう」は僕にとってかなり挑戦だったんです。今までは、“センチミリメンタル”というアーティスト名ですから、心の機微を歌うことが多くて。自分の感情を客観的に見たり、主観的に見たり、いろんな広さで表現してきました。そんななか「ゆう」では、日常のなかの狭いコマの映像、クローズドな景色を描いていて。
―― とくに1番Aメロの<繰り返し見たドラマを 見てまた君は泣いている 必死にその感想を伝えてくれる>というフレーズからは、その1シーンが映像で浮かんできます。
そうなんです。<一緒に食べる夕飯とか 帰り道の綺麗な景色とか>みたいな歌詞も、今までの自分だったら書けなかっただろうなと。今回、初めてそういうチャレンジができたので、これからさらに細かい描写、映像が見えてくるような狭さも表現してみたいなと思っています。
あと、もっとチャレンジして、「これは誰が書いたんだろう」って思われるぐらいまったく違う歌詞も書いてみたい。いっそ名義も変えて、めちゃくちゃかわいいアイドルの歌とか(笑)。それでまた新しい景色を見つけられると思いますし、センチミリメンタルの音楽としても、引き出しが増えるんじゃないかなと。そういう願望もありますね。