―― NHK Eテレ新番組『The Wakey Show』テーマソング「それもいいね」は、最初に「こどもたちが朝、口ずさみながら登校する姿」を考えられたそうですね。
この番組のプロデューサーさんとお話をしたとき、本気で子どもたちのことを考えていることが伝わってきたんです。とくに印象的だったのは、「大人が思う“子どもらしい子ども”にさせるのは、相当わがままなことだから、自由にいてほしいし、羽を広げてほしい」というお話で。それは僕のなかにもある思いですし、「はいよろこんで」のMVを作ってくれたかねひさ和哉さんも同じようなことを以前Xでポストされていたから驚きました。
とはいえ、教育番組なので、何か成長できるきっかけの言葉を与えないといけない。そこで「それもいいね」というワードが合うなと。教育の邪魔をしないし、優しくて無限の可能性がある。そして、それをどのタイミングで口にしているかを想像してみたら、登校時だったんです。朝、この番組で歌を聴いて、この言葉が頭でリフレインされて、登校中に「それもいいね」と言い合っている光景は平和だなと。そういう歌を目指しました。
―― 子どもたちは「それもいいね」というひと言だけでも成長になり、それを一緒に観ている大人は、よりいっそう考えさせられる歌詞になっていますよね。
いや、そうなんですよ。なんなら子どもたちって、わざわざ教えなくても、ずっと「それもいいね」という感覚なんだろうなとも思って。大人だからこそ、「それもいいね」という言葉を今さらながらよいものだと感じるんですよね。
うちの母は教育の勉強が好きで、今でもたまに子育て論の講演会みたいなものを行なっていて。僕が病気から復帰した頃、一緒にいろんな場所へついていっていたんですけど、そこで親御さん方が数々の相談をしてくるわけです。たとえば、「うちの子のここを直すためにはどうすればいいですか?」とか。それに対して僕は毎回、「それでよくない?」と思っていました。

小さい頃、兄と弟は公園で遊んでいるのに、僕だけ家でゲームをしていて。それを当時の母はあまりよく思っていなかったんです。だけど、時間が経つにつれ、まさに「それもいいね」と許してくれた。「けんとも偉いね」と受け入れてくれた。自分自身にそういう経験がありまして。ゆえに、この歌を聴いた親御さんたちが、「たしかにな」と悔し涙を流してくれたら…という気持ちもあったと思います。それは僕のエゴだから、歌詞に出しすぎないように気をつけながら。
―― サビの<どんどんのめり込んでくこの世界は 摩訶不思議ばかりだから>というフレーズも、“わからないこと”を<摩訶不思議>という表現にされているところが優しくて素敵だなと。ファンタジックな感じもします。
そう、<摩訶不思議>って、漢字5文字とは思えないくらい柔らかい言葉ですよね。ひらがなやカタカナにしたほうがわかりやすいかなとも思ったんです。だけど逆に、漢字のほうがより子どもたちにとって<摩訶不思議>感が出るだろうなと。さらに、「これってどういう意味?」と子どもが家族に訊くような流れになったらいいなと。そういうところまで想像しました。
―― また、2番で<ぼくらが覚えている 楽しいとか好きなことが 誰かの力になる きみの出番さ>とバトンが渡されるようなシーンも印象的です。
「それもいいね」はあまり実体験を入れずに作ったのですが、このフレーズだけは、僕からWakey(ウェイキー)へのメッセージのような気持ちで書いたんですよ。偶然にも、僕は2024年に<楽しいとか好きなことが 誰かの力になる>という経験をすることができて。だから、今年から始まるこの番組の主人公であるWakeyにもそんな体験をしてほしくて。<きみの出番さ>と言いたくなってしまいました。
―― けんとさんがこの歌でとくに好きなフレーズというと?
やっぱり「それもいいね」のひと言にいちばん強い熱を感じます。「これだけでいいから覚えて帰ってほしい」みたいな気持ちですね。実はこの言葉、自分が仕事を辞めたあとに出会ったもので。うちの父が小さいラジオ番組を持っていて、そこにはいろんなゲストさんが来るんですね。僕もそのYouTube撮影・編集の担当で入っていた時期がありまして。
そこでとある会社の社長さんが、座右の銘を発表するみたいなコーナーで、「できるだけ社員の言うことをすべて褒めるようにしているので、“それもあり”という言葉を大切にしています」というようなことをおっしゃっていたんです。それが僕はとても印象的でメモしていて。月日を経て、形を変えてこの歌に出てきました。
―― いずれも楽曲もご自身の経験がものすごくリンクしていて、けんとさんにしか書けない歌詞ですね。
思えば、父の手伝いをしていたからこそ、ひとの上に立つ方や広報の方、アーティストの方、いろんなひとたちの座右の銘を知ることができた。そこで得たものが大きくて、それがこういう形で歌詞に出るということが多いんです。今の自分にとって、すべての経験が超大事だなと改めて思いますね。
―― けんとさんにとって、歌詞とはどんな存在のものでしょうか。
本来、音楽というものに歌詞はいらないと思っています。メロディーと曲が在れば成り立つ。たとえば、クラシック音楽は言葉がなくても感情が伝わってくるじゃないですか。それが真の音楽みたいな感覚もある。だけど、歌詞があることで、誰が聴いても何を伝えているかわかるようになる。少しズルいんです。そう考えると、歌詞は感情を伝えやすくするチートであり、救える分母を広げてくれるもの、ですね。
―― 作詞はお好きですか?
ものすごく好きです。パズルのようで、言葉がハマったらそれ以外の正解はないように思えるのが楽しくて。「理系は答えがあるけれど、文系には答えがない」とよく言うけれど、歌詞の場合は答えがある気がしていて。僕はわりと理系的な作詞をしていると思います。日本語という縛りのなかで、音の繋がりや子音の数、1行前の文字数を考えていくと、「これしかない」というワンフレーズが出てくるんですよ。
―― ご自身のなかに方程式があるんですね。
そうそう。一時期、作詞の本で勉強しようとしたんですけど、そのとおりに書くとおもしろくなくて。すべて放り投げて、自分だけの緩いルールを作っていきました。たとえば、韻を踏みたいと思っても完全に踏むのではなく、頭や語尾、途中をなんとなく似ているような踏み方にするのが好きだったり。誰かを参考にしていないからこそ、楽しくやることができているところはあるかもしれません。
―― 歌詞を書くとき、いちばん大切にされていることはなんですか?
自分が泣けるか、自分に響くか、そこを物差しにすることです。「それもいいね」なんかは、家で仮歌を歌っているとき、後半で何回も「それもいいね」と繰り返すところで、泣いてしまって歌えなくなりました。「めっちゃいい歌じゃん!」って刺さりすぎて(笑)。自分が自分のいちばんのファンであることが大切かもしれません。
―― ありがとうございました。最後に、これから挑戦してみたい歌詞を教えてください。
小さい頃の初恋の気持ちを、子どもの言葉で書きたいんです。それは多分、自分に子どもができて、その子から話を聞かないとできないんだと思います。だから将来、もしも子どもができたなら、発する言葉ひとつひとつを大切にして、そのときにしか出ない言葉を僕の歌に吸収したいなと。
―― とても楽しみな夢ですね。
僕はもう忘れてしまったけれど、生まれて初めての「好き」という感覚を、「好き」という言葉を知らない子がなんと言うのか。「一緒にいたら楽しいねん!」みたいなところから広げてあげて、調査していけたらと思っています(笑)。