僕にとってのホームはやっぱり“母”だと思います。

―― 2曲目「がらくた」もまた、今までのYuukiさんのミドルなラブソングのイメージがガラッと変わるような1曲ですね。

今作の「花詩」「がらくた」「I’m home」は同じタイミングで作っていて、「笑い話」だけちょっと違うんですけど。全曲を通じて、ひとりでというより2人で考えたんですよね。プロデューサーというわけではなく、作曲やコードのアレンジ、楽曲の構成を「一緒に曲で遊ぼうぜ」くらいの感覚で相談できるひとがもうひとりいて。だからとくに「花詩」と「がらくた」は今までの僕っぽくないんですよ。

―― 歌詞としては、Yuukiさんが音楽活動をされている上で抱いている生の感情が詰まっているように感じました。ご自身が“汽車”となって、レールの上を走っているようなイメージでしょうか。

そのとおりです。まず、ホームタウンといえば地元。地元に帰るには、飛行機、電車、…いや“汽車”だなと。あと、アコギメインの泥臭い感じの楽曲が欲しくて、ギターでフレーズを弾いていたときに、カット音が汽車のガタンゴトンという音に重なる感じもして。そこから“汽車”というイメージで歌詞を広げていきました。

さらに「I’m home」も“汽車”のイメージを繋げていて。1番と2番の終わりに、ガタンゴトン、シュッシュポッポという音も直接的に入れちゃいました。

―― 先ほどの「歌い続けていく理由」のお話にも通じますが、歌う理由は<勝手に動く心臓はきっと、薪をくべる人々の純情>というフレーズに繋がっていて、自分の野望が見つからないという点は<僕はどこにあるんでしょう?>というフレーズに重なる気がしますね。

おっしゃるとおりで、野望って持っていたと思うんですよ。「誰かに曲を聴いてほしい」とか「誰かに僕の気持ちが届いてほしい」とか。その野望が「Myra」や「W/X/Y」を始め、いろんな楽曲を通じて、平たく見ると“叶った”んですよね。だからこそ今、すごくニュートラルな状態というか。シンプルに言うと、次の野望がない。

もちろんライブで言えば、「ドームでやりたい」とか「スタジアムでやりたい」とか、いくらでも出てくるんですけど。それをやるための根本である“楽曲”の部分で野望が見つかっていなくて。でも、それでも支えてくれるひとがいるわけで。聴いてくれるひとがいるわけで。それがつまり<僕>という汽車に<薪をくべる人々の純情>で、何の悪意もなく、むしろありがたい。ただその一方で、自分を見失いそうな状態であるのも事実で…。

―― だけどこの曲は<(どこにある? どこにある?)>というバネによって、むしろ最後<それでも生きてゆく>という希望に思い切りひらけてゆくところが素晴らしいなと。

photo_03です。

僕もこの曲の肝はそこだと感じています。自分の葛藤を描いただけで終わっていたら、納得できる歌詞にはなってなかった。そんなものを抱えているのは僕だけじゃないし、<愛の類も時には疲れてしまう>のも当たり前だし、痛みを抱えながら<それでも生きていく>しかない。それを最後に<憎たらしくて 愛おしい 素晴らしき日々よ>と肯定することができたことが本当によかったですね。これは今の僕ならではの歌詞だなと思えます。

―― 終盤の“タラタッタッタラ”はライブで会場のみなさんと歌えそうですし。

歌いたい!だからこの曲をライブでやるのがめちゃくちゃ楽しみなんですよ。この“タラタッタッタラ”なんて意味はない言葉ですけど、どこか希望の光みたいなものを与えてくれる気がしていますね。

―― 3曲目「笑い話」と4曲目「I’m home」の<あなた>はおそらくYuukiさんにとって同じ方ですよね。

今、占いで当てられたような感覚になりました(笑)。2曲とも<あなた>は僕にとって母のことです。僕の学生時代全体を支えてくれた、いちばん大きいひとで。僕にとってのホームはやっぱり“母”だと思います。

「笑い話」は今回のEPタイミングで作ったわけではなく、学生時代に作ってずっと温めていた曲で。僕は当時、病気をしてしまって学校にも通えなくて。日常生活がままならない鬱憤と反抗期が相まって、よく母に当たってしまっていたんですよね。思ってもないことを口にしたり。だから、「本当はそんなこと思ってなくて、真っ直ぐに伝えられてないけど、ありがとうと感じているよ」という思いを僕なりに素直に書いてみた曲で。

とはいえ、そういう時期だったので、これをリリースすることは恥ずかしかったんですよ(笑)。だから、いつか恥ずかしくなくなるときが来たら、母の日のタイミングとかで出せたらいいなぁと思っていて。そして今回、ホームタウンというテーマだし、母の日も近いし、このEPにとても馴染んだのでようやく収録することができました。さらに偶然にも、このタイミングで作った「I’m home」の<あなた>も母になっていたわけです。

―― しっかり感謝を伝えることが恥ずかしくない“今”にたどり着けたのですね。

ですね。「花詩」とはまた違う、いい意味での「大人になるってこういうことなのかな」という気持ちを抱くことができました。

―― 今作でとくに書けてよかったと思うフレーズを教えてください。

「笑い話」は、当時書いた歌詞を久しぶりに読んで、すごくハッとしたんですよね。もちろん母に対する申し訳なさや思い出、感謝も綴っているんですけど。僕が音楽を続けていく根本の気持ちがストレートに書かれていて。やっぱり昔も今も<間違いだらけの日々をいつか 誰かの笑顔のために歌ってゆこう>という、このフレーズに込めた想いに尽きるな、と感じました。

「I’m home」の<夕焼けに染まらないように 夜空に追いつかれないよに 手を引いてくれたあなたの背中と 見慣れたいつかの帰り道>は、昔の情景を思い出させてくれるので好きです。

あと<居心地の悪さに時の流れと 変わらないものが確かにある>というフレーズも、等身大の今を表現できたなと思います。ひとり暮らしを始めると、口うるさいひともいないし開放的な気持ちになるじゃないですか。でも時間が経つにつれて、ホームシックというか、少し寂しい感覚もある。それなのに、僕は年始に実家に帰るんですけど、いざ実家にいると「なんか窮屈だなぁ」と感じるんです(笑)。

―― むしろ距離があったほうが、感謝できたり、大切に思えたりしますよね。

そう、距離って大事なんだと思います。でもこれは余談なんですけど、僕のライブサポートをやってくれているメンバーが、久々に実家に帰ったらしく。「よく考えてみると、実家にあと何回帰れるかわからないし、帰ったタイミングで家族とずっといるわけでもない。トータルで考えたら、人生で家族と一緒に過ごせる時間ってもう1ヶ月もないんじゃないかな」と言っていて。たしかに…と思いました。みなさん、実家には帰れるときに帰りましょうね!

―― では最後に、Yuukiさんにとって歌詞とはどんな存在のものですか?

僕の想いを素直に吐き出せるもうひとつの言語、という感覚です。普通の会話のなかでは出てこない言葉ですし。歌詞はひとりで書くので、すごく自分と向き合える時間だと思うんですよね。歌詞だからこそ、自分の気持ちを自分の口でこんなにも吐き出すことができるなぁ、と思います。


123