今だからこそ地元・茅ヶ崎で過ごした日々を見つめたい…。全4曲入りEP!

 2024年5月8日に“Tani Yuuki”が1st EP『HOMETOWN』をリリースしました。今作には、自身が歌い続ける理由を見つめ直したツアーを経て制作された「花詩」「がらくた」「笑い話」「I'm home」という楽曲テイストの異なる新曲たちを収録。インタビューでは、そんな4曲への思いを語っていただきました。さらに、歌詞を書き始めた意外なきっかけ。大人になったことによる“脳内配分“の変化。今、『HOMETOWN』というテーマに立ち返る理由…。などなど、じっくりお伺いしました。今作と併せて、Tani Yuukiの歌詞トークをお楽しみください。
(取材・文 / 井出美緒)
笑い話作詞・作曲:Tani Yuukiそれでも僕は守りたかった 愛すべき笑顔守りたかったんだ
何度も 何度も 伸ばした手 突き刺さるように
間違いだらけの日々をいつか 誰かの笑顔のために歌ってゆこう
どこにいてもあなたへ届くように いつか笑い話にできるように
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「このフレーズを使って曲を作ってみてよ」って。

―― 歌ネットの『今日のうた』では「夢喰」「愛言葉」「W/X/Y」「Over The Time」の歌詞エッセイを書いていただいています。Yuukiさんはご自身の経験や感情を言語化するのがお上手ですよね。

それ嬉しいです! たまに自分でも書いたエッセイを読み返すので(笑)。得意ではないかもしれないけれど、文字に起こすことが好きなんだと思いますね。学生時代も、学校で「物語を作る」みたいな課題があって、そういうものを書くことも好きでした。

―― いちばん最初に「歌詞」を書いたのはいつ頃ですか?

高校2年生ぐらい、だった気がします。もう今だからお話できるんですけど、実は当時お付き合いしていた方のお父さんがプロの音楽家で。それこそ作詞とかもされていて。「音楽をやっているんでしょ? 聴かせてよ」と言っていただいて、僕は中島みゆきさんの「」を歌ったんですよ。そのときは、「うん。いい声をしているね」って褒めてくださったんですね。

でも、あとからその彼女に、「お父さんが“いい声はしているけれど、シンガーソングライターになりたいなら、オリジナル曲がないとダメだ”って」と言われて(笑)。たしかに…と思ったけど、どうやって曲を作ろうと。そんなときその子が、「じゃあこのフレーズを使って曲を作ってみてよ」って、数文字の言葉をくれたんですよ。それで歌詞を書いてみたのが、最初のきっかけでしたね。

―― たしかそのお話、「愛言葉」のエッセイで少し触れてくださっていましたね。

あ! そうです!初めて作った歌詞が「愛言葉」だったわけではないんですけど、ふとその子のことを思い出してエッセイを書いたんですよね。でもそういえば、初めて書いた曲、恋人からフレーズをもらったはずなのに失恋ソングになったなぁ…(笑)。

―― ちなみに、元恋人の方がくれたのはどんなフレーズだったのでしょうか。

今回のEP初回盤のライブ映像に「Dear drops」という楽曲がありまして。そのAメロですね。<この瞳で見た どれだけ残酷な景色も 涙だけで洗い流せたら 世界は美しいのに>みたいな葛藤から始まるんですよ。

―― その方も素敵な詩人ですね。

そうなんです。今思うと、改めてすごいひとだったなって。一方で、Aメロを読んでみると、「え、もしかして結構、言いたいこと溜まっている?」と思ったりもしたんですけど(笑)。

「Dear drops」はまだリリースしていなくて、ライブだけでやっていて、フルバージョンは初回盤でしか聴けないんですよね。でも、もしそのお付き合いがなければ、オリジナル曲を書いたのはもっと後だったでしょうし、自分もラブソングを軸に書いてなかったかもしれないので、僕にとって大事な1曲です。

―― Yuukiさんが歌詞面で影響を受けたアーティストというと?

完全にRADWIMPSの野田洋次郎さんですね。僕は音楽の専門学校に通っていたんですけど、もう授業もサボって曲作りに没頭して、「どうしたら野田さんになれるか」と考え尽くすぐらい野田さんの楽曲に惹かれていましたし、自分もそういう楽曲を作りたいと思っていました。

―― 今改めて言語化するなら、野田さんの歌詞の魅力とはどんなところでしょうか。

photo_01です。

まさに最近、自分のなかで言語化してみたんですよね。「当たり前のこと」にしっかり目を向ける天才なんだな、と思いました。もちろん当たり前じゃないひともいるのは大前提で。たとえば「五体満足であること」とか、ありがたいと知りつつも、日常のなかでどうしても「当たり前のこと」になってしまうじゃないですか。だからいざ歌詞にしようと思っても、気づけないことが多い。だけど野田さんの着眼点はすごい。どんなものを食べて生きてきたら、そんな歌詞を書けるんですか?って思う。その結果、野田さんになることは諦めました(笑)。

―― ご自身の歌詞にはどんな特徴があると思いますか?

自分はわりと素直だなと思います。そのなかのフックとして少し野田さんのエッセンスをいただいている感じです。今作だと「花詩」の<鏡よ鏡この世界の中で1番優れているのは誰? まぁ、何においても自分じゃないことは聞くまでもないけどね>とか、「見上げればいくらでも上はいる」という当たり前のことを、うまい言い回しで表現してみたり。僕の場合はそういう部分的なものですが、野田さんはもはやすべてがフックだなと思います。

―― ご自身のなかで“Tani Yuuki”としての歌詞の軸が確立されてきたなと感じたタイミングはありますか? とはいえ、最初に発表された「Myra」からヒットしているのですが…。

おっしゃるとおり「Myra」のときからもう、歌詞の“らしさ”的なものは固まっていたと思います。ただ、僕自身が“納得できている”という感覚では少し違って。言いたいことも言い尽くして、なおかつフックになるような表現も入れられたな、と初めて満足できたのは「愛言葉」ですね。

とくにあの曲の2番は気に入っています。そこからリズムが変わって、言葉の譜割りも変わるんですね。そして<空が暗くなければ星が見えぬように>とか<咲いた花もいつか必ず枯れて散っていくように>というフレーズで、大切なひとの存在は“当たり前だけど当たり前じゃない”という気持ちを表現できた。それは大きな手ごたえになりました。

―― ちなみに、いわゆるヒット曲、リスナーへより広く届いてゆく楽曲というのは、できあがった瞬間に何か確信があるものなのでしょうか。

いや、確信ともまた違って…。でも「イケる!」という基準で、以前ひとつわかりやすく設定していたのは、「歌っていて恥ずかしくないか」というところだった気がします。「愛言葉」とその前に生まれてきた楽曲との差もそこかな。自分が心の底から思っていることをさらけ出せたから、恥ずかしくないんだろうなって。でも時が経ってみると、「うわー、青いなー、恥ずかしい―!」って思ったりもするんですけど(笑)。

最近はまたちょっと感覚が変わってきて、あえてそういう青さとか恥ずかしさを出してみるのもまたいいよね、って思ったりしています。ただ、どんな曲でも“自分が納得できている”というところはいちばん大事にしていきたいですね。

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