隣に座って、寄り添っているイメージで歌詞を書く。

―― 詩織さんがアルバムのなかでとくに書けてよかったと思うフレーズを教えてください。

まず「Spotlight」の<目を凝らして 粗探しでもすればいいさ>ってフレーズ。自分も誰かに対して、「こういうところ苦手だな」とか「なんか合わないな」って思うことはありますし。もちろん誰かから見た自分もそういうところは絶対にあって。まぁ粗探しはされたくないけれど、いいのかな、それもありだなって。どうぞ好きに見てください、聞いてください、思ってください、という気持ちで書いたフレーズでした。

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あとは「何者」の<変わり者だっていいから、唄え>ってフレーズ。これはすごく素直に出てきた言葉でした。まわりのひとから、「なんか詩織ちゃんってやっぱり変わってるよね」って言われることがよくあって。そういうとき、「あ、私って変わってるんだ。普通にいるのにな。どうしたらいいんだろうな…」って悶々とする自分がいたんです。でも今回はそこで、「もうそれでもいいだろう!」って書けたことは大きかったですね。

―― <変わり者だっていいから、唄え>というワンフレーズは、中学生の頃に自分を鼓舞するためにポエムを書いていた気持ちにも通ずるものがありますね。

そうですね。自分を励ますための言葉でありながらも、かつて「ゆれるユレル」で書いた<変わりたいよ 変われない>というところから、成長できたことが自分でもわかるフレーズが<変わり者だっていいから、唄え>だなと思います。あと、私と同じように「自分ってどういうふうに居たらいいんだろう」って悩みを抱いているひとたちにも、届いたらいいなと本当に思います。

―― どの曲も、問題や悩みが解決はしてないところもいいなぁと思いました。「このままでいいよ」と受け入れてくれるような。

まさにそのとおりで。無理やり、頑張って頑張って変えようとしたところで、負のループに陥ることがほとんどなので。それに気づいてからは、「これも自分なんです」って素直に受け入れちゃって、言えたほうがいいなって。自分も楽になるし、まわりのひともきっとわかってくれるし。もっともっとお互いわかり合えるのかなって気持ちがありました。そういう自分の在り方が、「何者?」という問いに対する今の答えなのかもしれません。

―― では、もう少し作詞のお話をお伺いします。詩織さんはどんなときに歌詞を書きたくなることが多いですか?

本当に嫌なんですけど、どん底な気持ちになったときですね。「なんで今なんだ…」ってときに曲を書きたくなることがほとんどで。逆にいうとハッピーなときは出てこないですね。あと電車に揺られているとき、携帯にメモしたりすることが多いです。

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―― 年齢や経験を重ねるにつれて、歌詞面で変わってきたと思うところはありますか?

やっぱり最初は、自分に向けて歌詞を書いていたんですね。それが、誰かに向けて書いてみたり、誰かの気持ちを自分なりに解釈して代弁してみたり、そういう曲も増えてきたところはひとつ変化ですね。それは、今まで出せなかった自分をどんどん消化できているからなのかなと思います。いまだに難しいこともたくさんあるんですけど、少しずつコントロールできるようになっているのかなって。

―― 作詞の際にはどんなところに難しさを感じますか?

自分に対して、嘘をつかないでいること。素直に書けていること。そこがいちばん難しいなと思います。あと、ひとと関わるなかでも壁を作りたくない気持ちが強いので、歌詞を書くときにも気をつけるところですね。

―― 歌詞を書くとき、意識して使わないようにしている言葉はありますか?

「頑張れ」とか「お前ならできるよ」とか、わかりやすい応援の言葉はなるべく書かないようにしてきました。他人事に聴こえてしまうこともあるので。もちろんうまく表現されている方もたくさんいるんですけど、自分がそれを書くのはちょっと違うのかなって。なので、聴いてくれるひとの隣に座って、寄り添っているイメージで歌詞を書くことが多いです。

―― 逆に、好きでよく使う言葉はありますか?

今日の取材でもたくさん言った気がするんですけど、「素直」ですかね。あと「大丈夫」とか、自分を落ち着かせたり、受け入れようとしたり、そういう言葉は多く書いているかもしれないです。

―― 詩織さんにとって歌詞とはどういう存在のものですか?

「それでもいいんだよ」って日常に寄り添ってくれるものだと思います。自分の曲も、好きで聴く曲も。落ち込んだとき、うまくいかなかったとき、優しくそこにいてくれる存在ですね。

―― 最近「この歌詞いいなぁ」と思った曲はありますか?

The Birthdayのチバユウスケさんが歌っている「誰かが」という曲をずっと聴いています。<誰かが倒れたら 起こせばいい それだけでいい 誰かが立ったなら ささえればいい それだけでいい>という、ストレートな言葉が詰まっていて。高校時代とかもよく聴いていたんですけど、今回アルバム制作をするなかで、ロックな曲をひたすら聴いていたので。なかでもチバさんが歌う「誰かが」は、すごく自分が鼓舞されている気持ちになって、響いた曲ですね。

―― ありがとうございます! 最後にこれから挑戦してみたい歌詞を教えてください。

今回に限らず、「新山詩織、それ言っちゃうの?」みたいな言葉とか、もっともっと人間ならではのダークな部分をストレートに書いてみたい気持ちがありますね。このアルバムを聴いてくれたひとが、「詩織ちゃんもっといけー!」って言ってくれるかもしれないし。自分のなかのいろんな面を探し続けていきたいなと思っています。


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