正しいとか間違いだとかを超えた部分で肯定したかった。

―― アニメ『NieR:Automata Ver1.1a』エンディングテーマの「アンチノミー」というタイトルは、どのようにたどり着いた言葉でしょうか。

<自分殺し生きている>というフレーズを思いついて、それって二律背反だよなって思って「アンチノミー」という言葉に至りました。NieR:Automataのアンドロイド、機械生命体は生まれながらに矛盾をはらんだ命なので、そういうところから着想を得ています。

―― いちばん最初に生まれたフレーズを教えてください。

歌いだしの<感情は持たないでください>です。アニメのエンディングを想像して、どんなメロディーが流れて、どんな歌詞なのかを思い浮かべて出てきたフレーズです。

―― 「アンチノミー」で描かれている“心の葛藤”や<生き延びて 生き延びて 息をするんだ>という“生きる意志の提示”に、とくに影響を与えたと思う『NieR:Automata Ver1.1a』内のセリフ・シーンはありますか?

ゲーム『NieR:Automata』の後半で9S(※)を操作する場面に変わるんですけど、そこをイメージしました。9Sは理由があって刹那的な感情に支配されて暴走してしまうんですよね。それを正しいとか間違いだとかを超えた部分で肯定したかった。その気持ちがサビのフレーズに繋がってると思います。
※『NieR:Automata』のキャラクター“ヨルハ九号S型”の略称

―― <感情は持たないでください><人を愛さないでください>と<僕>を思考停止させようとしている声は、その根底に<それがあってはこの先 きっと辛すぎる>とどこか“僕のため”の想いも抱いている気がします。ひろむさんはこの“指示の声”をどのような存在として描かれましたか?

photo_02です。

現代の風潮、世間体を意識しました。NieR:Automataは現代社会への示唆に富んだ作品なので、現実の僕たちの葛藤に通ずる箇所が多くあると思い、そこを抜き取って描きたいなと思いました。

―― サビの<人として憤れ 感情を踏みにじる全てへ>というフレーズは、amazarashiが大切にしてきた核にも通ずるものを感じますが、ひろむさんは今、どんなときに“人として憤る”ことがありますか?

社会の合理化や便利さの為に、人命や尊厳が踏みにじられることに明確に怒りを感じます。

―― <僕>は曲が進むにつれ、より強く血が通っていく印象を受けました。<そういえば、この憎しみもよく似てる>と“ふと気づく”瞬間からも生きた心が伝わってきます。ひろむさんは曲中で<僕>の変化をどのように意識して描かれましたか?

1コーラスができた段階でこの“気付き”は絶対に入れなきゃなと思いました。そうしなければただの怒りの歌になってしまうので。

怒り対怒りになってしまうと、どうしても我を忘れて表面的なぶつかり合いになってしまう。その場合、互いの怒りの根元を明らかにしなければ解決には向かわないのでは、と思います。その為に“気付き”の瞬間がどこかで必要だと考えました。

―― 大きな質問になってしまい恐縮ですが、ひろむさんにとっての「心」の定義、そして「命」の定義とはどんなものでしょうか。

極論ですけど、自由意志だと思います。

―― 「アンチノミー」でとくに書けてよかったと思うワンフレーズを教えてください。

<感情は持たないでください>でしょうか。NieR:Automataに出てくるフレーズではあるんですけど、そこから今を生きる人たちにどう繋げるか、という起点になったので、すごく大事な一節だと思います。

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