俺が子どもたちに残したいメッセージは、完結したんだなという感覚がありました。

―― Only One,Only You」は反戦歌でありながら、ファンの方が自分にとっての"応援歌"として捉えられるような力もある気がします。

正直、歌で戦車は止まらない。戦争も終わらない。でも人の気持ちはちょっと変えられる。聴いている3分間だけは、ハッピーにできたりね。歌の力なんてそんなものなんだけれど、そこに込められているメッセージを常に想像し続けていれば、少なくとも思っていたより人生って悪くならないんじゃないかな。そういうきっかけを共有したいなと思うんです。

「Only One,Only You」に書いた事実は、想像しづらいだろうし、戦争を自分事にするのもなかなか難しい。だけどさっきのように、「自由って何だろう」って会話が生まれたり。「神様が聞いてくれる願いには、どうやら制限があるらしいぞ。抽選なのかな?」って発想が生まれたり。そういうことでいいなって。それはGLAYの結成当時からの変わらない想いですね。

―― 音楽は、わたしたちの新たな想像や会話のきっかけになり得るのがすごいところですね。

photo_01です。

そう。たとえば、竹内まりやの「元気を出して」という曲でも、「僕はまだ恋をしたことがないけれども、失恋をしたらこんな悲しい気持ちになるんだ。だけど友だちがいると、こうやって励ましてくれるんだ」って想像できるじゃないですか。そして実際に自分が失恋したとき、本当に歌詞と同じ状態になって、やっぱり寄り添ってくれるひとがいて。そのとき、「あぁ、歌で聴いていたとおりなんだなぁ。誰かが失恋したら今度は、自分が寄り添ってあげよう」って思えたりする。

音楽って、そういう小さなことの積み重ねならできる気がするんです。そこはいろんなエンターテインメントから教わったところでもあります。やっぱりどの作品も根底には、「こんな大変な世の中だけれど、人間は信じ合っていかないと生きていけない弱い生き物なんだ」というメッセージがある。だからこそ、今日より明日、より優しいひとであろうとする自分を想像しながら生きていく。それは俺が、函館という大自然のなかで最初に学んだことであり、そういうものを伝えるために言葉とずーっと格闘していくんじゃないですかね。

―― TAKUROさんにとって、歌詞とはどんな存在のものですか?

20代の頃は、好きなアーティストのようになりたくて、「カッコいい歌詞を書きたい」とか「芯を食ったことを言いたい」とか思っていたんですね。それがやっぱり結婚して、子どもを持ったときから、少しずつ変わってきていて。日常生活の中で、お父さんが子どもたちに伝えたい気持ちを言葉にする機会って、なかなかないじゃないですか。しかも俺の親父は38歳で亡くなったんですね。おじいちゃんも早くて。久保家の男性は寿命が短い。だから自分も38歳という年齢にずっと恐れがあって、実際にその歳になるとき「マジかよ…」という感じで。

だけど同時に、「あ、でも俺、もう大丈夫かも」と思ったんです。俺が子どもたちに残したいメッセージは、この「SAY YOUR DREAM」という曲をもって、完結したんだなという感覚がありました。たとえ俺が死んでしまったとしても、この子たちが将来、迷ってアドバイスがほしいと思ったとき、GLAYのアルバムを3枚ぐらい聴けば、多分どの曲かに答えはあるはずだから。そう気づいたとき、気が楽になったというか。

歌詞を「生きた証」というほど、カッコいいものでもない気もするんだけれど…。でも今は、自分が物書きとして書いてきたこと全部、俺がいてもいなくても、誰かにとって悩みごとの解決、もしくは気持ちを和らげるきっかけになればいいなと。常にそういう願いを込めていますね。

―― GLAYはみなさん曲を書かれますが、TAKUROさんから見て、それぞれの歌詞にはどんな特徴があると思いますか?

HISASHIはね、16歳の頃に出会って、今も飲んでいて一番おもしろい男なんですよ。だけどイマイチ掴みどころがない。かぶきものというか。何が本音なのかわからない。具合悪くても言わないし。どこか痛くても言わないし。だけど、歌詞の行間から滲み出る彼の本質は、俺がぼんやり持っている彼へのイメージと合うんですよ。言葉遊びで煙に巻くけれど、すごく本当のことを言っているかもって、歌詞を見るといつも思う。

普段、世の中に対するメッセージなんか出さないし、文句も言わない。なんなら怒られるようなことをいっぱいして、「さすがHISASHIさん」と言われてニヤッとする。なんだろう…中二病的なところがある(笑)。でも実はとても優しくて、誰より平和や調和を愛するようなところが歌詞から滲み出ていますね。俺だったらもうちょっと表現が違うだろうなと思うものがたくさんあります。

TERUさんに関してはもう、歌詞のまんまですね(笑)。いっつも誰かを応援しています。野球選手とか、悩んでいる誰かとか、宇宙人とかまで応援しているんじゃないですかね。目の前にいるファンのひとのみならず、ここにはいない誰かのために本気で歌えるひとなので。その唇から出てくる言葉は、彼そのものですね。

JIROさんはね、あの子はもっと歌詞を書いたほうがいい。繊細なので。ガラスの少年とは彼のことですからね。真面目なだけに、抱え込むことも多いと思う。だけど書いているうちに整理できたり、自分や誰かを許せたり、ヒーリング効果もある。自分が今、対峙している局面に対して、書くことで次に進めるような気もするし。だからたくさん歌詞を書いてほしいですね。めんどうくさがって、すぐにメンバーに作詞を振るんですけど。

―― (笑)。

メンバーとの共作で、歌詞を提供するほうが難しいんですよ。しかも、自分も気に入っている。JIROに書いた「運命論」とかも、「おはよう」から「おやすみ」までを歌うNHKの『みんなのうた』みたいな歌詞が書けたから。ひとのメロディーだとより共同作業感が出て、自分を抉るというより、その曲を引き立たせるサポートに回れるんですよね。逆にそっちのほうが評価されたりする。おもしろいですよね。

―― メンバーの曲だからこそ、出てくる言葉があるんですね。

まぁ「自分の曲のほうが気合入れているよね」って思われたくないじゃないですか(笑)。「俺はお前の曲のほうが、めっちゃ作詞家として力を入れたぞ!」って姿勢を見せなきゃ。でもそうやって絞り出しているうちに、思わぬ自分のページが開いたりして。だからやっぱりたまにはやるものですね。

―― メンバー全員が曲や歌詞を作れるってかなりの強みですよね。

そうそう。というか、俺は思うんですけど、曲って誰でも書けると思うんですよ! よく友だちと車に乗っていると、「曲を作るってすごいよね」とか言われるんだけど。「いやいやいや。ジャジャジャジャ、ジャジャジャジャ、ジャジャジャジャ♪ これになんでもいいからメロディー乗っけてみなよ」って。「無理無理!」って言うんだけど。ジャジャジャジャ「Y!」、ジャジャジャジャ「Y!」、ジャジャジャジャ「Y!」♪…ってもうこの「Y!」でいいんですよ(笑)。本来は自由で誰にでもできるはずなのに、すごく難しく思われているのがずーっと疑問で。

歌詞も然り。そんなに喋れるなら、そのまま歌詞になるのにと思うことがたくさんあります。ただね、ファンレターとかで、「私の歌詞を見てください。どう思いますか?」っていうのはいちばん難しい。だって、「宇多田ヒカルが歌ったら、全部いい曲だよ!」って思うもん(笑)。とくにポップス音楽なんてそうでしょう。だから作詞家を目指しているひとは、じゃんじゃん書いて、いい作曲家、いいシンガーに出会ったら、ちゃんと一流作詞家になれると思う。

―― ファンの方から「読んでください」という歌詞が届き、しかもそれをTAKUROさんご自身がちゃんと読まれるのですね…!

来ます来ます。でもやっぱりものを書くっていいですよ。それは世に出る、出ないに関わらず。どんどん書いてほしいですね。

―― ありがとうございます。最後にこれから挑戦してみたい歌詞を教えてください。

自分のなかで2時間の脚本を描いてから、それを1曲にするような歌詞を書いてみたいと思っているんですよね。3分間の歌なんだけど、その後ろには長い物語がある。でもその物語自体は伝えない。

よく役者の友だちと話すことがあってね。たとえば、腕利きの刑事の役をやるとなったとき、やっぱり役者はその刑事がどんな生い立ちなのか、過去にどんな事件を経て、今の頑固一徹な性格になったのか、いろんな背景を監督や脚本家と話して、ひとりの刑事役を作り上げるらしいんですよ。そこから出る深みってあるじゃないですか。

GLAYはたとえば、先日ドリフェスで「Freeze My Love」って曲を演奏したんですけど。あの曲は彼女が出ていって、「あーあ、別れちゃった。あーあ…」って嘆いている5分間を書いた曲なんですよ。「彼女と別れてから1年間こんなふうに思いました」ではなくて。「出ていったかぁ…このクッションもなぁ…」みたいな(笑)。リアルタイムの5分間だけを切り取った。そうやって自分で枠を決めて書いたとき、おもしろい曲ができたので、今度は逆のことに挑戦してみたいなと。たとえば、GLAYが持っているストーリーを3分間のなかに閉じ込めるとかね。そういうことをやってみたいと思っています。


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