半個室でこそこそ話しているふたりの話を聞いちゃったみたいな距離感を大事にしたい。

―― 「キスをしよう」の歌詞に<まだ分からない、分からないままでいいか>というフレーズもありますが、はっとりさんの描く主人公はあまりはっきりした答えを出さないのが良いなと思います。余白をくれるというか。

答えを出せないんですよ。情けないんですよ。だから臆病なひとが多いですね。答えなんて持ってないって、割り切っているとも言えるし。

―― 言わないほうが誠実なこともありますよね。間違っているかもしれないと思うからこそ、言えないし、言わない。

そう。何かを「違う」って言うことは難しいですからね。多分、違くないし。それでもなんとかヒントを伝えたいようなときには、今回だったら「はしりがき」、過去の曲だったら「青春と一瞬」や「ヤングアダルト」のように、「こうなんじゃない?」という投げかけになります。歌詞が一人称でもなく、二人の会話でもなく、天の声になるんですよ。だから僕の場合、歌詞は3パターンです。「なんでもないよ、」のように、パーソナルに自分の主観を歌った曲。それぞれの登場人物の気持ちを描きながらストーリーを綴った曲。そして、遠くから答えじみたヒントを投げかける天の声タイプの曲。

―― たとえば11曲目「ワルツのレター」は天の声タイプですか?

ですね!さすがです。じゃあ「生きるをする」はどうでしょう。

―― …1つ目の主観タイプでしょうか。

と、3つ目が混ざっている。主観と天の声が混ざっている、混合タイプもあるんですよ。「メレンゲ」なんかも1と3の混合ですかね。ときには1と2のコンビネーションもあるし。主にその3パターンを組み合わせながら僕の歌詞はできていますね。

―― 今作にはいろんなタイミングで書いた全12曲が収録されていると思いますが、とくに今の自身にリンクする曲を挙げるとすると?

「はしりがき」で歌っていることは、常に自分のなかのモットーとして置いておきたいかな。とくに、前のインタビューの色紙にピックアップした<どう転んでもあんたはあんただ>ってフレーズは、すごく残っているし、大事にしているし。<ただ無駄を愛す>ことも心がけています。

あと「八月の陽炎」の<言葉はファッションではないからさ>というフレーズもモットーとしてある。言葉は重ね着しても、着飾ってもダメで、肉体に近いもの。出てこなかったら出てこないでいいんですよ。それに、伝わらなくても、ぎこちなくても、そのときパッと出てきたものが自分の言葉なんですよね。探す前に出てきたものを大事にしたいなという気持ちも強いです。

―― 歌詞を書くときのマイルールはありますか?

決めているルールはないけど、癖はありますね。たとえば、トイレで書くことが多い。本当にトイレは書きやすいんですよ。ひとによって違うけど、曲は水回りで生まれることが多かったりしますよね。お風呂でシャワーを浴びているときにメロディーが降って来るとか。「なんでもないよ、」もキッチンという水回りで出てきたし。まぁ人間も水があって誕生したし、すべての生き物の源は水であるし、何かが生まれるときには水が常にあるのかな。お母ちゃんの羊水もそうだし。だから、曲が生まれるときにも水が近くにありがちなのかもしれない。…とか、そんなことまで考えています(笑)。

―― では、意識して使わないようにしている言葉ってありますか?

それもないかなぁ。必要な言葉だったら過激でも使うし、ワードそのものの選別はしていないです。ただ、浅はかな気持ちが裏側にあったら避けます。たとえば「過激な言葉を使ってやろう」とか「この言葉遣いが受けるだろう」とか「今っぽいだろう」とか。そういう下心が見え透くのは嫌ですね。さっき言ったように、言葉はファッションじゃないから。言いたいことが純度高く伝わるなら使う。言葉そのものというより、自分の気持ちに嘘がないかを重要視していますね。

―― 反対に、よく使う言葉はいかがでしょうか。

photo_01です。

それは結構ありますね!たとえば<曖昧>って言葉。意味が好きなんじゃなくて、仮歌をなんちゃって英語で歌ったときに<曖昧>が乗りやすいからなんですよ。それをそのまま日本語変換したときに、<曖昧>と残していることがとくに初期では多いんじゃないかな。あと<愛>と<夢>はすごく多いな。とくに<愛>なんか全部の歌詞に入っているんじゃないですかね。あ、<曖昧>にも“あい”が入ってるわ。これは一生のテーマなのかも。

―― 歌詞を書くときに大切にしていることは何ですか?

まずはさっき言った、浅はかに言葉を選ばないこと。あと文字だけ読んでも説得力がある歌詞にすること。そして、聴き手との距離感ですね。僕は他のアーティストの曲を聴いていて、歌詞に入り込めないまま気持ちが離れることもあるんですよ。遠いな、自分事にできないなって。かといって、近すぎるのも嫌。説教臭いな、恩着せがましいなって。そのちょうどいい間で在りたいんですよね。俺だけに向けられた歌じゃないんだけど、自分事にできたり、聞かれたくない話なんだろうけど、つい聞いてしまったり、そういった距離感。なんか…半個室でこそこそ話しているふたりの話を聞いちゃったみたいな距離感を大事にしたいんです。それが自分とリンクした場合、「あぁ自分だけじゃないんだ」って報われることがあるじゃないですか。そうやって安心してほしいというか。そういう歌詞が好きですね。

―― お話を伺っていて、はっとりさんはすごく歌詞というものを大切にされているのがわかります。

うん、やっぱりだんだんそうなっていったのかな。言葉の意味をちゃんと考えることが好きになっていった。でも一方で、もっとラフでいいのにとも思っているんですよ。言い方は忘れちゃったけど、甲本ヒロトさんも「歌詞を重視しすぎ」みたいなことはおっしゃっていて。たしか「俺がやっていた時代のパンクは、もっと大雑把に愛や希望を歌っていた。意味のない言葉でも、歌ったときに意味を持てばそれでいいんだ」って。それはすごくわかるんです。「なんでもないよ、」のように、何も言わないことが大事なときもあるし、歌はどんな意味にもなり得るから。だからときには「トマソン」みたいに曲のなかでイリュージョンしたり、意味をかなり薄めている曲を作ったりもしていますね。

―― 10曲目の「TONTTU」も歌詞の意味というよりは、遊び心がある歌ですよね。

あれはねー、実は意味がないようであるの(笑)。よっちゃんのサウナに対する想いを、インタビュー形式で聞きまして。実際に<湯入る>ってサウナが<鋼管通り>の前にあるとかね。でもそれもサウナ好きには伝わればいいし、ピンとこないひとは鋼鉄を感じるメタルソングとして楽しんでもらえればいいと思います。

まぁやっぱり歌詞は適当には作れないですね。その言葉にすごく救われるひともいると考えたら。もちろん何も考えたくないときに聴く音楽もあるし、僕もそういう曲を欲するときがあります。でも基本的には考えることが好きだし、比較的いろいろ考えることが好きなひとに僕らの音楽は愛されている気がしますね。それに僕は言葉を使うこと、言葉を綴ることが大好きなんですよ。だから歌詞を書いているんだろうなって思います。

―― ありがとうございました!最後に、これから挑戦してみたい歌詞はありますか?

チャラいやつ。朝まで踊ろうよ系。これマジな話なんですけど、DJプレイってめちゃくちゃカッコいいなと思って。こないだMAN WITH A MISSIONと対バンしたときに間近で見たのがカッコよすぎたんですよ。だからマカロニの楽曲でもいつかやりたいなと。そういう曲を作った場合、歌詞はやっぱりパーリーナイトじゃないですか(笑)。必要に応じて、書いてみたいなと思いますね。


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