僕は重度の寂しがり。

―― 8曲目「パレード」には<真っ白な花束>というワードが登場しますが、ひゅーいさんが花を描かれるときって“白”である割合が高いですよね。

そうですね。全部、白いチューリップをイメージしています。これもやっぱり母親が関係していて、白いチューリップが好きなひとだったんですよ。あとちょっと暗い話になるんですけど、葬式でうちの親父が白いチューリップをすんごい量頼んで。母親は白いチューリップまみれで天国に行ったんですね。そのイメージが今もめちゃくちゃ強くて。だから歌のなかにも、別れや旅立ちの意味合いを持って登場することが多いですね。

―― ちなみに他にも、好きでよく使う言葉ってありますか?

<風>とか<星>はすごくよく出てきます。それは実家が茨城県の田舎で、海と田んぼのなかで生活してきたからだと思います。いくら東京に出てきて20年ぐらい経つとはいえ、ずっと自分が見てきた風景が刷り込まれているというか。あと<そばにいるよ>かな。どんだけそばにいたいんだよってぐらい、<そば>って使っていますね(笑)。でもこれも仕方ないというか。僕は重度の寂しがりで、ひとがいないとダメなんですよ。だからコロナ禍とか結構キツくて。歌もひとからインスピレーションをもらって書くし、それがいちばんの核になる。だから歌詞にもひとがいてほしくて、<そば>って使いたがるんだと思います。

―― 10曲目「アヤメ」はどんな<僕>と<あなた>をイメージして書いたのでしょうか。

いちばん強かったのは、ライブに来られなくなったファンの方や、自分の歌を生きる糧にしてくれている方に向けて書きたいなという気持ちでした。2年ぐらいは距離があって、SNSではいろいろ言えたりするけど、やっぱりライブができないとしっかりした感情の交換が足りないなと思って。でもだからこそ「大丈夫だよ、俺はこういうふうに思っているからね」ってことを歌にして、ひとりひとりの<あなた>に届けたかったんですよね。あと<あなた>という人称を使うこと自体もわりと珍しいので、そこもひとつの挑戦でした。

―― <なんだか今日バラエティを見て笑えたよ>というワンフレーズが大好きです。

良いですよね~。そう…結構「アヤメ」は歌詞を頑張ったんですよ。自分に「寄り道するな!寄り道するな!」って言い聞かせて(笑)。とにかくちゃんと届けようという想いで書いていましたね。

―― 11曲目「スワンソング」は、映画『私は白鳥』の主題歌ですね。

これは書き下ろしではなくて、もともとあった曲なんです。この曲を使いたいって言っていただいたときに、本当にひとことぐらいだけ歌詞を変えて、「スワンソング」というタイトルにしてお渡ししました。映画は澤江さんという方と白鳥のドキュメンタリーで。翼が折れた白鳥を毎日見守るのが、澤江さんの人生なんですね。「私はおじさんの形をしているけど、心は白鳥です」って言っていて。僕は『北の国から』が大好きだから、もう…本当にこの作品に出会えてよかったって思いました。そして僕は意図してなかったんですけど、映画の最後に「スワンソング」が流れたとき、その白鳥が澤江さんに想いを届けているような歌に思えたんですよ。

―― 書き下ろしかのように感じました。

俺も書き下ろしかと思った(笑)。不思議です。歌詞の<いつもと同じ空の隅っこから>ってフレーズ、そこはもともと<空>じゃなくて<部屋>だったんです。変えたのはそこだけで。この歌は生身の人間の温かさを歌った曲なんですけど、澤江さんも本当にそういうひとだから、上手く合致してよかったなと思います。

―― アルバムのラストを飾る曲としても、全体をあたたかく包んで終わらせてくれるような1曲ですね。

そうですね。僕のなかでは2020年と2021年の総括的な歌でもあります。どんどん生活が変わっていって、最初はちょっと不安だったりもしたけれど、だんだん慣れていくじゃないですか。ウーバーイーツ頼めるし、飲み会はオンラインでやれるし。なんでもできるから、寂しさみたいなものも案外なくなっていって、それが怖いなと思ったんですよね。人間らしくなくなっていくのが。だから俺はどんな時代になっても、生身のひとの温かさを求めるひとでいたい。自分の歌詞の主人公もそうであってほしい。「スワンソング」はそんな歌ですね。

―― ひゅーいさんがこのアルバムの中で、とくに「書けて良かった」と思うワンフレーズを教えてください。

photo_01です。

「スワンソング」の<いつかこの欠片を磨いたら ダイヤモンドみたいに輝いて はしゃぐ君に会いたい そんなことを今、想像してたんだよ>ですね。僕の音楽を聴いてくれている方とか、僕の身の回りにいる大切なひとたちに向けた、本当に素直な言葉だなって。<いつか>というワードも正直だし。音楽はひとつひとつ欠片で、それを磨いたり削ったりしながら結晶のようなものにしていく。そういう決意が込められています。この2行が書けたとき、自分でも「そうだよな」って思えましたね。

―― 10周年を迎える今のタイミングだからこそ、より響く言葉というか。

そうそう。こないだも2年ぶりにバンドツアーを東名阪やってきたんですけど、正直、悔しさもあったり。もっといろんな場所に連れて行ってあげたいし、いろんな景色を見せてあげたいという想いがすごく今、強いですね。

―― ありがとうございました!最後に、ひゅーいさんにとって歌詞とはどんな存在のものですか?

僕は自分の記録というものをあまり残さない、残せない人間で。たとえば小学校のアルバムとかひとつも持ってないんですよ。写真とかも好きじゃなくて。そうなると、自分が世の中に存在したことを残せるのって、音楽しかなくて。だから歌詞を書くことは、自分をこの世界に残せるたったひとつの手段なのかなって思います。音楽って、一回誰かの心に響いたとしたら、ものは何も残らなくてもそのひとのなかに残るじゃないですか。バックアップデータも必要ない。そういうものが素敵だなと思うから、歌詞を書くことも歌うことも頑張れますね。


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