私は小さい身体で、めちゃくちゃ周りを水浸しにして泣いていた。

―― 今回は様々なミュージシャンをプロデュースに迎えられていますが、それによって発見した、新たな“足立佳奈”像のようなものはありますか?

5曲目の「おやすみ」はMichael Kanekoさんとやらせていただいたんですけど、アルバムをリリースする1年半ぐらい前から一緒に温めていた曲で、もう歌詞も書いていたし、歌入れもしていたんですよ。でも、このアルバムのために「もう1回やりたいです」って、作詞も歌入れもやり直して。それを聴き比べたとき、Michaelさんが「全然、歌うときの肩の力の抜き方が違うね」とおっしゃっていて。そこで初めて、たしかに変わったなと気づきました。今のほうがなんだか少し、自分のなかで余裕があるのかなって思うような聴き心地でしたね。

歌詞も当初はピュアな感じだったところから変わりました。自分が大学生になってみて、結構周りに、恋に破れてうまくいかないから、とりあえずみんなで集まって、トランプして飲もう!って子が多かったんですよね。だからとくに<山札をめくって また一杯飲み干して 君じゃないやつとは うまく馴染んで楽しんでる>ってフレーズとかは、環境が変わった今だからこそ書けたんだなって思います。

―― この曲は<僕>という主人公像がすごくリアルですね。紅茶が嫌いで、秋は恋人とかぼちゃ料理をたべて、冬は熱海に行って…。

それも出会った男の子たちを参考にしましたね。「あの子、たしか午後ティー嫌いだったなぁ」とか、「彼女のことは知らないけど、こういうことがあったかもしれないなぁ」とか。いろんな男の子たちが、ひとりの<僕>になっている感じです。あと、<冬は熱海行って泊まって>は、私が友達と冬に熱海に行った実体験だったりもします。「熱海って夏じゃない? 冬に行くって佳奈らしいね」って友達に言われたのが印象的だったので、歌詞に入れてみました。だからいろんなリアルが反映されている主人公なんですよね。

―― アルバムのなかでの挑戦曲を挙げるとすると、どの曲が浮かびますか?

「ライオンの居場所」と「2歳の記憶」ですね。どちらも家族の歌で、ここには何のフィクションもなくて。リアルをより追及していこうとしていた私が、ちゃんと歌詞で挑戦できたなと思います。これでまた一歩、向かっている先が見えてきたような気がして、自信に繋がる2曲になりました。

とくに「2歳の記憶」は、編曲の渡辺シュンスケさんがピアノを弾いてくださったんですけど、レコーディングでは、せーの!で歌を入れさせてもらったんですね。一発録りで。ピアノと歌を同時に一発録りなんて今までしたことなかったので、それもひとつの挑戦でした。よりリアルな感情をさらけ出せたなって思います。

―― 「2歳の記憶」は、本当に佳奈さんが2歳のときの記憶なんですね。私はそんなに幼い頃の記憶はまったく覚えておらず…。

私も自分に2歳の頃の記憶があるとは思いませんでしたね。でも、あるライブに行かせていただいたときのMCで「みなさん、小さいときのこれだけは覚えているって記憶ありますか」という問いかけをしてくださって。それで「私には何の記憶があるだろう」って、ライブの帰りもずっと考え続けたんです。そうしたらふと「あ、あのときの気持ち、覚えてる」って思い出して、この曲を書き始めました。お父さんについて書こうというより、そのMCのお言葉から「2歳の記憶」に巡り合うことができたんだと思いますね。

―― その記憶は、ワンシーンを鮮明に覚えている感覚なのでしょうか。

そうですそうです。あのときの自分の気持ちと、みんなの様子と…。私は小さい身体で、めちゃくちゃ周りを水浸しにして泣いていたんですよね。その一瞬の鮮明な記憶から、1曲が広がっていった感じですね。

―― では、難しい質問かもしれませんが、アルバムのなかでとくにお気に入りの1曲を選ぶとしたら?

photo_01です。

「雨の日は」かなぁ。どうにもならない想いを綴っていて、本当にもどかしい歌なんですけど、それでも<今日もひとりでに笑った>って、自分ひとりで解決しようとしているというか。一見救いようがなさそうで、でもこういう歌こそ、誰かの心に寄り添ったり救ったりできるのかなって、今の私は思います。20歳のときに作ったアルバム『I』とはまた違った形で、自分の気持ちの変化を表現できた1曲ですね。

―― お話を伺っていて、1曲目の「なんかさ」に通じるものを感じました。佳奈さんの素のつぶやきというか。

まさにそうですね。アルバムの最後に「雨の日は」を持ってきたかったのも、最初と最後は心にスッと入っていくようサウンドと歌詞にしたかったからなんです。私のつぶやきから始まって、いろんな気持ちや思い出やシーンが出てきて、そして最終的にはまた自分の心に戻ってくる。そういう物語の回収ができたらいいなと思って、アルバムの曲順を考えました。

―― また、「雨の日は」には<虹>というワードが出てきますが、この曲は最初におっしゃっていた「虹を見て生まれた」楽曲ですか?

そうなんです。駅の改札を出て、人だかりになっているのはなんだろうと思ったら、みんなが空を見上げて「綺麗―!」って言っていて。その光景を見て、もちろん私も綺麗だと思ったんですけど、同時にすごく「悔しいな」とも思ったんですね。それが、前の恋人との思い出に重なるような歌詞に繋がったんだと思います。

―― アルバムの中で「書けてよかった」と思うフレーズを教えてください。

まず「ライオンの居場所」の<今はこのままライオンでいさせて>ですね。私は家族の前だと態度がわがままになっちゃう瞬間があるんですよ。たとえば、バシッって扉を閉めちゃったり、無視しちゃったり、子どもじみたことをしてしまう自分がいて。でも恥ずかしいから、それをなかなか言葉では言えなくて。だからこそこの曲では、ライオンという例えを使いながら、素直に「わがままでいさせて」ってちゃんと言えたことが、良かったなって思っています。

もうひとつはやっぱり「This is a Love Story」の<あなたがいて今日も幸せよ>ですね。これをちゃんと言えたところが嬉しいです。よく友達と「幸せってなんだろう」って話すんですけど、考えすぎずに「あなたがいて今日も幸せ!」って言いたいと思ったんですよね。幸せって、追求すればするほど、より深刻なものになっていきそうだけど…。でも「幸せ」って言葉を常に言うことができたら、もっとハッピーになっていくんじゃないかなって。

―― ありがとうございました!最後に、佳奈さんが歌詞を書くときに大切にしていることは何ですか?

等身大の自分の気持ちを歌にすること。私は難しい言葉を使うタイプの人間ではないので、自分らしさとして、ストレートな言葉選びをするようにしているんですよね。だから、どの世代の方が聴いても、スッと心に入っていけるような歌詞になればいいなと思っています。

あと、自分が経験したことがないラブソングを書くときには、とにかくいろんな方の話を聞くようにしています。理解はできないけど、ひとつの価値観や考えを知ることで、わかったような気になる。その「わかったような気になる」ことが大事だと思うんですよね。そうやって自分のフィルターを通して、自分らしい歌詞にすることも大切にしています。いろんな気持ちに寄り添いながら、歌い続けていきたいですね。


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