隠したいんだか、言いたいんだか、どっちだよ!

―― 今回のアルバム収録曲の歌詞は、コロナ禍を意識されたりはしましたか?

いや、してないですね。というよりも単純に、コロナ禍の前に書き溜めていた曲たちなんです。唯一、3曲目の「御幸橋」は、最初の緊急事態宣言が出たときに、朝っぱら周囲を散歩する習慣がついていて、そのときの景色を綴ったものだったりはする。とはいえ別にコロナが影響した内容ではありません。ただ、このアルバム収録曲以降に溜まって来ている歌詞たちには、やっぱり混じってきます。イライラとした、もやもやとした気持ちだったり。「それでもやろうよ」っていう気持ちだったり。コロナ禍だからこその歌詞も生まれてはいますね。

―― コロナ禍を意識された曲ではないかもしれませんが、6曲目の「南十字星(はいむるぶし)」は、今だからこそより沁みる気がします。ずっと立ち止まる暇もなかったけれど、ふと足を止めてみて“願いごともない自分”に気づくような。

うんうん。南十字星(はいむるぶし)って、沖縄の言葉なんですけど、この曲は沖縄の小浜島に家族で旅行したことがきっかけで生まれました。それこそ今おっしゃってくれたように、久々に立ち止まったなってくらい、身も心も解放された時間だったんですよ。本当にふと立ち止まってみて書いた歌というか。なんでしょうね…ほんわかと途方に暮れるような。でも嫌ではない気持ちですね。

―― そしてアルバムのラストを飾る「リョウメンシダ」のタイトルは、植物の名前なんですね。

リョウメンシダは、昆虫観察でいつも歩いている山道の一角に生えているんです。で、息子が植物観察教室に通ったときにリョウメンシダの特徴を教わったみたいで。まず表と裏に見た目の差がないんですよ。そして『スイミー』みたいに、全体のシルエットとそれを構成している一部のシルエットが同じ。小さいのがたくさん集まって、同じ輪郭の大きなものを作っているんですって。「それおもしれーな!」って歌にしたんですよ。

―― お子さんのひと言から歌が生まれることもあるんですね!

photo_01です。

まぁこの曲だけですけどね(笑)。あと、そのときちょうど、医療従事者のみなさんを育てる学校のCMソングを作ってくれないかと依頼をいただいていて。リョウメンシダは、そういう歌になり得るぐらい素敵な特徴だなと思ったんです。すべてが繋がっていて、巨大な我々を作っているというか。そういうイメージで書いた曲ですね。

―― アルバムのなかで「挑戦曲だな」と思う楽曲はありますか?

9曲目の「ギラギラなやつをまだ持ってる」を音源化するにあたって、ドラムやベースを入れなかったこと。この曲はいつもライブで弾き語りでやっているので、それをそのままレコーディングすれば良い代物ではあるんですけど、多分ちょっと前の自分だったら、もっといろんな音を入れて組み立てて収録していたと思います。でも曲の内容的にもギター1本のほうが合うような気がして。これはあまり今までにないことでしたね。

―― この曲の<Still Going On>というフレーズがアルバムタイトルにもなっていますし、強い1曲ですね。

そうですね。自分はジャパニーズ・ヒップホップがすごく好きで。大学生のときに初めて聴いて夢中になって。そのアーティストさんの歌詞って「他は雑魚だ、俺が最強だ」みたいな内容なんですね。だからどうしても自分もそっち側になっちゃうんです(笑)。結局、言葉が強いひとが好きということなんだと思います。

―― アルバムのなかで、とくに「書けて良かった」と思うフレーズを教えてください。

「南十字星(はいむるぶし)」の<よく考えてみれば よく考えたことがなかったよ 思い返してみれば 思い返したことがなかったよ>って、すごくあたたかな途方の暮れ方だなと思って、ここは気に入っていますね。

「今宵もかろうじて歌い切る」の<あいつが逝ったとの報せを いまだ 鼓膜の内側に飼っている>も、自分で書いておいてバカっぽいんですけど、言葉として綺麗だなって思います。

あとはやっぱり「たった二種類の金魚鉢」の<お魚はいいね 水の中では涙を気づかれずにすむだろう お魚はかなしいね 水の中では涙に気づいてもらえないだろう>が好きですね。そうなってくるともう全部好きですね(笑)。

―― 歌詞を書くときに、好きでよく使う言葉はありますか?

僕は<たとえば>が多いですね。限定しないものの言い方をしたがります。もうこれも書き癖だと思いますね。あと、前に俳句入門の本を気まぐれに読んだんですよ。いろんな俳句の基本が書いてあるんですけど、そのなかに「茶色い小さなリス」という例文がありまして。それについてその本の先生が「“茶色い”も“小さい”も“リス”のなかに入っている」と。だから「“茶色い小さな”で文字を無駄遣いしている」と。なるほどー!と思ったんだけど、それって実は自分がずっと意識してきたことだなって。その言葉が集約してくれるものがあるなら、他はカットしていくとか。同じようなことを何度も言わないとか。そういうことは自ずと歌詞を書くときに好んできた、大切にしてきたことだなと思います。

―― ありがとうございます。最後に、竹原さんにとって歌詞とはどういう存在のものでしょうか。

過去に「わたしのしごと」という曲で書いたのですが、<ひそひそ話をする為に 何故かマイクロフォンをつかうこと>というフレーズがあるんです。なんか…そんな感じ。隠しておきたいことのくせに、マイクを使う。わざわざ書く。隠したいんだか、言いたいんだか、どっちだよ!という存在が歌詞ですね。


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