すごく幸せなひとりぼっち。そんな4曲が揃いました。

―― 2曲目「listen to the radio」の<僕>と<きみ>のイメージはどのように膨らませていったのですか?

わりと<きみ>の画素は薄いんです。それより<僕>がすごく愛くるしい主人公だなと思うんですよ。これは僕自身ではないんですけど。頑張って、好きな子がいつも聴いているラジオを聴いて、自分も好きになろうとしている。そういういじらしさから始まりましたね。相手の存在よりも主人公の人間性を描きたいなと思った1曲です。あと、すれ違いのほうが多い恋愛をしているひとなんじゃないかな。通じ合う場面もあるんだけれども、片想いに近い恋。それでも好きでい続ける健気さも好きですね。

―― 主人公も素敵ですが、<きみ>の「クズね、でも居た方がいいクズ」というセリフにもグッときました。

こんなこと言われたいなという希望ですね(笑)。<きみ>はどんなひとなんだろうな…。とりあえず、きっと髪の毛が長い女のひと。ちょっと手の届かないような感じも魅力的で。言葉選びがいちいち良いひとですね。

―― この曲は“ラジオ”がひとつのテーマになっておりますが、はっとりさんにとってラジオとはどんなものですか?

ひとりじゃないと思わせてくれる媒体ですね。隣の席の話を盗み聞きしているような感覚もあるし。あたたかいです。あとすごく音楽を教えてくれる。ラジオによって出会うアーティストとか曲って多いので。音楽を作っている僕みたいな人間にとっては、とくに距離が近い存在だなって思います。だからこの歌はラジオに対するラブソングでもありますね。

―― 3曲目「裸の旅人」は、アウトドアブランドColemanのWEB CMテーマソングです。これはブランドスローガンの“灯そう”というワードから広げていったのですか?

そうですね。強制じゃないですけど「“灯そう”というワードをできたら気にしてください」と言われたんですよ。僕は「できたらお願いします」と言われた場合、やるんです(笑)。入れたくなっちゃう。おかげで“灯そう”から広がった歌詞ですね。

―― 歌詞は、旅人たちとキャプテンの会話形式になっているのがおもしろいですね。より、ひととひととのつながりを感じます。

セリフが多いときは、僕が楽しんで書いているときですね(笑)。Colemanの店長さんに“灯そう”というスローガンの由来を聞いて、それが素敵だなと思ったんですよ。Colemanの歴史ってすごく長くて、アメリカで発祥して、小さなランタンを作るお店から始まったそうで。そこから、テントだったり、火を起こすアイテムだったり、アウトドアをするいろんなひとから愛される道具を作るようになって。長い歴史のなかで、ひととひととの繋がりを灯してきたんだって。この歌詞はそこから着想を得ましたね。いろんなひとの人生を灯すというテーマで。

旅人たちは先行きのわからない旅をしているんですけど、頼りがいがあるようでないようなひとが<キャプテン>で。でもなぜだか、ついていったら間違いないような匂いがするひとっているじゃないですか。そんな<キャプテン>が率いるチームの旅の途中のイメージなんですね。そしてこれは、バンドにも照らし合わせることができるなと思います。この先、うまく行き続ける保証なんてないけれど、メンバーは俺をすごく信じてついてきてくれているから。

笑って、出会ったひとと繋がって、また角を曲がって、新たに出会ったひととまた繋がって。そうやって旅を続けていけば、なんとかなるんじゃないかなって。バンドのこれからを指し示したような歌でもありますね。そのくせにMVでは、<キャプテン>は俺じゃなくて、ギターのよっちゃんなんですけど(笑)。なんかこの曲は、サウンド的にも鍵盤の大ちゃんが目立っていますし、他の3曲と大きく差別化をはかれたおもしろい曲で、結構お気に入りですね。

―― 4曲目「メレンゲ」のタイトルは“ゲレンデ”とかかっているのでしょうか。

そうですね!これは韻踏み探しをしているときに、ゲレンデ…ゲレンデ…メレンゲ…白、雪、ふわっと、浮く、体を浮かす、心を浮かす、羽、翼、本田翼さん、よし行こう!って感じで(笑)。そんなふうに言葉をバーッと並べました。すべてはイメージから生まれるので。冒頭の<マッチ売り、油売ってばっかでした!>とかは、想像しておもしろかったので書いてみましたね。

―― いろんなイメージが膨らんでゆくなかで、いちばんの軸になったものは何でしたか?

ラストサビの前に書いたことがすべてかなぁ。<もう空は飛べない 独りでは また僕を好きになりたい 生まれ変わったりする以外で>。独りでは飛べないというのは、自力が足りなくて飛べないわけじゃなくて。もう独りで飛ぶ必要がないくらい、仲間も支えてくれるひとも多くなったということの喜びを表しているんです。そういう喜びと、あと時々感じる孤独感が軸ですね。そういった感情を雪山に投げかけていたら、すごくロマンチックなんじゃないかなと思いながら書いた歌です。あのCMの映像が本当にぴったりなんですよ。自分を見つめ直す旅で雪山に行って、大の字で雪に倒れこんで、仰向けになって叫ぶっていう。そんな歌です。本田翼さんに捧げた歌です(笑)。

―― 4曲通じて、内省的な面も濃いですが、ひととの繋がりを強く感じますね。

そうですね。必ず誰かがいます。どんどん自分の底深くへ潜ってはいるんですけど、やっぱり誰かとの繋がりのなかにいる。だからこその孤独だし、自分だし。すごく幸せなひとりぼっち。そんな4曲が揃いました。

―― では、4曲それぞれ、とくにはっとりさんがお気に入りのフレーズを教えてください。

いろいろあるなぁー…。もう直感で言っていきますね。まず「はしりがき」は<覚えた数だけ分からないことだらけ>。「listen to the radio」は<生活は続いてゆく 永遠を装って>ですね。「裸の旅人」は<キャプテン!この歌のメロディも薄らいでしまうの? 消えていってしまうの? 「うん、思い出すためにね」という締め括りの部分かな。最後「メレンゲ」は<知らない他人に手を貸してもらえたのに 知ってる人間にしか耳を貸さない 僕はなんて この僕はなんて乏しいのだろう>ですね。このフレーズでやっと本音が出た感じで。なんか今作はとくに好きなフレーズが多いです。愛着がめっちゃ湧いていますね。この4曲の歌詞のフレーズがひとつでも、みんなの心の翼をフワッと浮かすような存在になればな良いなと思いますね。

―― ありがとうございました!最後に、はっとりさんにとって、歌詞とはどういう存在のものですか?

photo_01です。

すべての出来事に答えはないからこそ、一旦、腑に落としておくためのものだと思います。「これはこういうことだったんだ」とか。割り切って前に進むために言い聞かせる言葉。出来事に無理やり名前をつけていくことかもしれないですね。そうすると気持ちが楽じゃないですか。そんな感じですかね。でも僕はまだまだスタイルが確立し切ったと思っていないし、表現者として未熟だと思っているので、これからもっと歌詞の可能性に触れたり、生み出したりしていけたらなと思っている最中でございます。まさに旅の途中ですね。


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