4回の<やっぱ やっぱ やっぱ やっぱ>のなかにストーリーがある。

―― 7曲目の「#やっぱもっと」は前作の「電話出て」と同じく一青窈さんの作詞ですが、やはりインパクトが大きいですね。

もう本っ当にすごいですよね。しかも「#(ハッシュタグ)」をタイトルにつけるところとかも、ちゃんと時代を感じ取られていて。

―― どういう意図でハッシュタグをつけられたんですかね。

実は私も訊けていないんですよー。

―― なんだか訊いてしまうのもナンセンスな気もしますよね。

そうそう、訊いたら負けみたいな(笑)。でも本当にすごい。前作の「電話出て」のときもそうだったんですけど、一青さんに「今のさくちゃんはどう過ごしているかちょっと聞かせてよ」という感じのことを言われて、エピソードとかもお喋りした上でこの歌詞ができているから、よりおもしろくて。具体的にどのフレーズが実体験かというのは、ご想像にお任せしますが(笑)。

―― 「#やっぱもっと」は極端な話、結婚か別れかという究極の選択が描かれている気がします。

そうなんですよ!本当は<ごめんねありがとう 未来があるなら>というところ、最初「結婚が見えるなら」みたいなフレーズだったんです。うわ!ダイレクトに言ってくださったな、窈さん!と思いました。私が歌うにはちょっとストレートすぎるかなぁと、かなり悩んで、最終的には変えちゃったんですけど。でも、まさに<君>は<僕>が結婚を考えている相手なんだなって伝わってくるような歌詞ですよね。

―― 一緒に<フレンチトーストに>かぶりついて、<お揃いのジャージ>を着て、本気で結婚を考えるような相手でも、終わってしまうときは終わってしまうんですよね。

photo_01です。

急に終わりは来ますからねー。そこはかなり共感できる方いるんじゃないかなって思います。私の友達にも8年お付き合いして、プロポーズしたけどフラれてしまったという方がいるんですね。でも、そのあと1年だけ付き合ったひとと結婚したんです。だから、大切なのは付き合った年月だけじゃないんだなぁ、いろんな恋愛の形があるんだろうなぁ、って改めて感じました。

―― サビでは<やっぱ>や<なんか>、<なんで>というフレーズが何度も繰り返されることで、いろんな感情がぐるぐる回っている感じ、悩んでいる感じが伝わってきます。

ひとつひとつの<やっぱ>が違う色みたいな感じですよね。4回の<やっぱ やっぱ やっぱ やっぱ>のなかにストーリーがあるというか。たとえ同じ言葉でも、ひと言ひと言で含まれている感情は違うというところも、すごく歌いながら意識しましたね。

―― また、歌詞を文字で読んでも、表記や句読点、改行の仕方など、独特でおもしろいですよね。

ねー!一青窈さん「電話出て」のときもすごかったんですけど、一行一行、文字の大小もフォントも違うんですよ。多分「こういう気持ちで歌ってほしい」とか「こういう気持ちを込めました」っていうのが、文字の形に表れているんですよね。だから「電話出て」のときの歌詞カードはそれを活かして、最後の<電話出て!!!>の文字をめちゃくちゃ大きくしたりして。歌詞のいろんな面から、一青さんの想いが伝わってくるなと思います。

―― 9曲目「だってこのままじゃ」と10曲目の「透ケルトン」は緑黄色社会・長屋晴子さんからの提供曲です。以前、晴子さんにも取材させていただいたことがあるのですが、どこか櫻子さんと空気感が似ている感じが…。

そうなんです!晴ちゃんとは感性がめっちゃ似ているんです。同じ年ということもあるんですけど、何回かご飯を一緒に行ったりもして。プライベートな話をするなかで、考え方だったり、自信のない部分だったり、逆に自信のある部分だったり、好きなことだったり、すごく似ていて。

―― 芯が強くて、凛としているような感じもあります。

あー、私も晴ちゃんも強いと思います。でも多分、根っこの部分はふたりともすごく弱いんですよね(笑)。あと、男っぽいところも、仕事が好きなところも、妥協しないところもある。ただ、時には「本当にもうダメだ―」ってなっちゃうところも、なんか似ているのかなって勝手に感じています。

―― 晴子さんの歌詞は、どのようなところが魅力的だと感じますか?

まず私は晴ちゃんが紡ぐ言葉が大好きなんですよ。それを本人に伝えても「えー、私あんまり自信ない」とか言うんですけど(笑)。いやいやいや、私はあなたの歌詞に本当に魅了されているんだよって。今回の「透ケルトン」も<透けて透けて透けて>というワードをサビに持ってくるところとか、<透ける>という言葉で“私の道を進んでいく”という想いを表現できるところとか、めちゃくちゃ素敵だなって。しかも、歌詞の内容が私の考えていることとまったく同じだったので、自分自身の言葉のように歌うことができました。

あと「だってこのままじゃ」は<アイスクリーム>を持ってきて、恋心を歌うというところが可愛らしいですよね。晴ちゃんのカッコよさだけじゃなくて、彼女が持っている弱さだったり、可愛さだったりがところどころで垣間見える歌詞にキュンとします。わかりやすいメッセージ性を、ちゃんと晴ちゃんの言葉で伝えられるというところが大好きですね。

―― 他にも、アルバム曲の中で櫻子さんの推しフレーズがありましたら、教えてください。

まず「STARTLINE」の<ここがいつだってスタートライン>は、すごくポジティブで、私にとっても大切なフレーズです。あと「Love Letter」の<愛の言葉伝えたら壊れそう>も、めっちゃわかるー!と思いました。この曲は最後<あなたが輝いて幸せでいられますように願う>と歌っていて、あなたが輝いていることが私の望んでいることだよ、と伝えているのもまた素敵ですし。好きなフレーズはたくさんありますね。

―― 櫻子さんにとって、歌詞とはどういう存在のものですか?

あのときの自分がどう感じていたのか、ということを、言葉にすると広がっていくというか。自分自身を見つめ返せるというか。自分の感情に気づかせてくれる鏡のような存在ですかね。物事って意外とぴゃーっと過ぎちゃうけど、同じ悲しみや寂しさってひとつもないじゃないですか。今の感情をちゃんと言葉にしたら、どういうフレーズになるんだろうということを、今回「チューリップ」と「抱きしめる日まで」の歌詞を書くときに、すごく考えました。

―― ありがとうございました!最後に、櫻子さんがこれから挑戦してみたいのはどんな歌詞ですか?

エレキギターをかき鳴らしながら、ロックな曲を歌いたいなと思いますね。ちょっと「電話出て」みたいな感じとも違うような、魂の叫びというか、心から湧き上がる訴えみたいな。そんな曲で、ライブでお客さんと盛り上がれる日を楽しみにしています。


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