シャッターは誰かに下ろされたのではなく、自分で勝手に下ろしたんだな。

―― 映画『ファーストラヴ』主題歌・挿入歌を書き下ろすにあたり、映画サイドの方からキーワードやイメージなど具体的な希望などはありましたか?

景色が浮かぶような歌詞を、というような事は伝えて頂きましたが、「このワードを」のような細かいリクエストはなかったので、私が映画を観て感じたことに委ねて頂いたように感じています。

―― この作品は『ファーストラヴ』というタイトルでありながら、決して単なるラブストーリーではないからこその難しさがあったかと思います。そのなかでUruさんが意識したことや、どのような“核”を広げながら、曲を作っていったのかを教えてください。

私も同様で、「ファーストラヴ」というと一般的に思い浮かべるような甘酸っぱい恋の物語とは違って、もっと広域の「愛」を感じました。それと同時に、難しいな…とも思いました。

「ファースト」という言葉がとても重要なキーワードな気がして、きっと昔から心の奥ではずっと求め続けていた「愛」というものが、この「ファースト」に集約されているような印象を受けました。なので、ハッピーエンドのような書き方ではなく、これから先も徐々に心が柔和されて、相手との関係をゆっくりと築いていくような、二人のその先を祈るような曲になればと思い書いていきました。

―― 北川景子さん演じる由紀と芳根京子さん演じる環奈、この二人の女性はどのような存在に映りましたか?

photo_02です。

映画のシーンで、由紀と環奈が対面して話をするシーンがたくさんありますが、私はこのシーンで、由紀が話しているのは環奈でもあり、昔の自分でもあるのかなと感じました。二人とも同じ属性というか、自分と重ねてしまう部分を持っていて、だからこそ、相手と向き合う中で次第に自分の気持ちとも向き合わなくてはいけない、互いの存在がそんなきっかけになったのかなと思いました。二人に限らず、迦葉(中村倫也)や環奈のお母さん(木村佳乃)も、心の奥底で求めているものは共通しているような気がしました。

―― 映画の『ファーストラヴ』というタイトルには様々な解釈があるかと思いますが、主題歌「ファーストラヴ」は<初めて愛を知りました>という歌詞にあるように“初めて受けた愛”を意味しているように感じました。Uruさんはどのような想いからこのタイトルにたどり着いたのでしょうか。

「普通」がどのような形かはわかりませんが、多くは、生まれてすぐ注がれるものを無意識に「愛」と感じていると思います。主人公はきっと生きていく上で、何かしらずっと孤独を背負ってきて、深い傷を負いながらもその事と向き合う事もできず、求める事を辞めてしまっていた時に、ある出会いによってそれが次第に紐解かれていき、その時に初めて、自分が求めていたものはこれだったのかと気付いたのかなと思います。

これは私が感じたことなので、みなさんはそれぞれの感想を持って頂ければと思いますが、元々私も原作や映画を拝見しながらこの曲を作ったので、このような事を考えながら書き進めていく中で「ファーストラヴ」以外にしっくりとくるタイトルが思いつかず、許可をいただいてこのタイトルにさせて頂きました。

―― この歌詞のなかで、いちばん最初に生まれたフレーズを教えてください。

<時が経っていくほど 硬く脆くなっていく>ですかね。硬いのに、触るとパラパラと簡単に粉々になってしまいそうなほど時が経ってしまった、その間ずっと孤独であったという映画の登場人物達の孤独を表したいと思いました。

―― AメロBメロと、サビとでは歌声に“温度の変化”を感じました。レコーディングの際、とくに意識されたこと、想いなどがありますか?

それまでの私と、サビでは昔の自分を回顧するように現在の位置から歌っている感覚で、心の内を表に出せなかったその叫びをやっと吐き出したようなイメージで歌いました。

―― 歌詞内で<私>が<あなた>の愛に気付く瞬間は<肩を抱く誰かの温もり>、<腕の中聴こえてきた音>、<何も言わずに強く抱きしめた>など“言葉を介さないもの”であるのが印象的でした。

映画を観て頂くとわかると思うのですが、私は“「見守る」という形での愛”を感じる場面が何か所かあって、深い傷を負っているからこそ、無理にその傷に直接触れようとせず、一枚柔らかい布を被せたその上で掌の温度で優しく包むというか…。難しいのですが、そういう愛というか、相手の心の開きに合わせた愛情の注ぎ方をその人はしている気がして。そういう究極の優しさはやっぱり愛なんだよなあ…と妙に自分で納得しました(笑)。

―― <きっとこのまま誰も愛さない 誰にも愛されない>と、自身にある意味“呪いの言葉”をかけ、<幸せを願うことさえ>怖かった<私>が、誰かから“初めての愛”を受け取るにはとても勇気が必要だったかと思います。愛に気づくため、愛を受け取るために、孤独の中でも大切にすべきことは何だと思いますか?

私もそんな時期があったのですが、何かあると完全にシャッターを下ろしてしまいがちで。でもそのシャッターの内側では、本当は誰かに開けて欲しいと思う時もあって。急に開けられると眩しいから、優しくゆっくり開けて欲しいとか。でもある時、シャッターは誰かに下ろされたのではなく、自分で勝手に下ろしたんだなと気付く時があって。もし下ろさずそのままにしていたら何か違っていたのかなとか、大したことなかったと笑い飛ばせていたのかもしれないと思ったり…。

上手くまとめられないのですが、自分から好んで孤独に陥ろうとしないこと、もしシャッターを閉めてしまったとしたら少し光が入りこむ数センチの隙間を開けておくこと、誰かが開けてくれそうになったら素直に自分もそのシャッターを一緒に上げることを肝に銘じています(笑)。あとは、求める事を辞めてしまわないことでしょうか。

―― 恋愛に限らず、Uruさんご自身が“ファーストラヴ”を実感した瞬間、誰かからの愛を知った瞬間というと、どのような記憶がありますか?

私は、父が早くに亡くなり母子家庭で育ち、余裕の無い暮らしの中でした。ある時、友人たちが遊園地に行く計画をしていて、自分もその会話に合わせて行くと言ったものの、きっと行けないだろうなと思いながら帰宅して。ダメ元で母に相談してみたところ、やはり想像通りで…。友人たちにはその事を話せずにいました。

でも、数日経って学校から帰ってきた時、手紙と共にその遊園地のチケットが置いてあって。毎日3パターン位の服を着回している母の事を思うと、申し訳ない気持ちもありましたが、幼いながらに母の愛情を感じた瞬間でした。「娘より」という楽曲の中にこの想いを綴っています。

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