うわ!日清カップヌードルがこんなにオシャレに聴こえる!

―― 雫さんはマーケティング力のみならず、発想力や企画力もすごいですね。

ゲームを作っていたからかなぁ。私には音楽の特別な才能はないんですよ。でも、曲を作るときに「これって本当におもしろいの?」とか「当たり前みたいになっているけど、この事象を分析していったとき、要るものと要らないものが絶対にある」とか、物事を当たり前と思わずにすごく分解して考える習慣ができているんですね。それがあるからクリエイトできている気がしますね。頭が柔らかくなくなったときに、私はものが作れなくなるんだと思います。

―― 歌詞を書く上で、ここだけは譲れないという部分はありますか?

あー…。言葉として俗っぽすぎるもの、生活感が出すぎるものは避けるようにしていますね。たとえば「ヒミツ」は『スマホを落としただけなのに』のタイアップだけど<スマホ>というワードは入れてないんですよ。最初のデモには入れていたけれど、取りました。あと<LINE>とか<既読無視>とかも抵抗があります。ある程度は美しくありたいというか、文学性は保っていたい。私は結構、曲によって歌声を変えるし、サウンドもまったく違うから、歌詞の上品さの塩梅だけはわりと一貫させているかもしれないですね。

―― そういえば、クリープハイプの尾崎世界観さんも<iPhone>や<LINE>といった言葉は避けるとおっしゃっていました。そういう言葉を使うのは「本当は歩いて行かなきゃいけないところに、飛行機で行く感覚」だと。

尾崎さんと被った!!(笑)。でもズルしている気がするというのはわかりますね。そういう言葉を使わずして、いかにそれを連想させることができるかという縛りが上品さに繋がると思っているので。あと<iPhone>や<LINE>とか限定的な言葉を使うと、想像の余地がなくなりますよね。表現の幅が狭まりすぎてしまうし、ターゲットというか、取れるパイの人数が減っていく。iPhoneを持っていて、LINEをしていて、既読無視をされているひと、みたいなね。そこに当てはまる、ちょっとのひとにしか刺さらなくなっちゃう。だから避けている部分もあるのかもしれない。

―― シチュエーションが限られる具体的なワードもあまり登場しませんよね。

ですねー。「リスミー」の<PS4>ぐらいじゃないですかね。私がそういう直球なものが好きじゃないから入れないんですよね。ただ、宇多田ヒカルさんが「Kiss & Cry」で<今日は日清CUP NOODLE>って歌っているのを聴いたときには「うわ!日清カップヌードルがこんなにオシャレに聴こえる!天才じゃん!」って思ったんですよね。あれは宇多田さんの圧倒的ブランディングと圧倒的才能があるから格好良いのであって。私にはまだまだ時間がかかるなと思います。でもそれができることにも憧れるし、私がもうちょっと大御所になってきたら、今回の「SQUEEZE」みたいな曲を書くときも、タイアップ先の<天然水スパークリングレモン サントリー>ってワードをガッツリ入れますよ(笑)。そこまでいけるように頑張ろ。

―― ポルカの楽曲には<僕>、<私>、<君>、<あなた>、<お前>、いろんな人称が出てきますが、この使い分けはどのように決めているのでしょうか。

クライアント先のターゲット層も大きいですけど、やっぱり主人公の年齢とか性別とか設定とか、ペルソナ次第ですね。たとえば「トゲめくスピカ」だったら、主人公の年齢も性別も相手との関係性もあやふやにしてほしいみたいなところがありました。聴くひとによっては、男の子が好きな子に対して歌っているように感じるかもしれないし、成人女性が友人に対して歌っているように感じるかもしれない、という歌詞にしたくて。比較的なじみのある<僕>と<君>を選びましたね。

ここを<私>にしてしまうと、女性に限定されてしまう感じが出るんですけど、女性から見た<僕>はわりと寛容されている傾向にあると思うんですね。いろんな曲を聴いていて、たとえ<僕>という人称で歌われているものでも、女性が「私のこと」って普通に思えている。逆に、ちょっと年齢高めでセクシーな感じを狙いたいときは<私>を使います。あと人称が統一できないところは「 」をつけたり。「FICTION」の<「つまらないのは世界か?お前自身か?」>とか。

―― 10曲目の「ストップ・モーション」は、相手の存在は感じるものの、二人称がありませんね。

そう、ないんですよ。これもこだわっていて。実はこの曲もタイアップがついていて、そのために書いた曲だったんですね。でも企画段階でご一緒できなくなって。私の原案だけが残ったので、そのふんわりした歌詞をほとんど使って、そこから派生させて完成させました。そのとき、聴くひとによっては遺書のように捉えられるようにしたんです。曲調的には、夜の高速をドライブしながら聴いてほしい感じで、光がキラキラ流れていくイメージなんですけど、それがちょっと走馬灯っぽいなと。じゃあもうポップ遺書にしてしまおうと。

遺書って、自分語りするものじゃないですか。だから特定の<あなた>に書くものではないなと思って、二人称は使わないようにしました。<私>が死んだあととか、世界が終わったあとの話ばかりする、ポップ遺書、自分語りソングになっています。ただ、今回『何者』のオンライン予約特典のデモ音源CDに「遺書」という曲も収録しているんですよ。遺書、書きすぎでは!?って(笑)。でもまぁ書いてある内容もまったく違いますし、あくまで「ストップ・モーション」は主人公の遺書で、私の遺書ではないのでね。

―― では、雫さんがこのアルバムのなかで、書けて良かったと思うワンフレーズを教えてください。

えー、全部良いなぁ。まず人気があるのは「トゲめくスピカ」の<想像の君の鼓動にばかり 耳をすませている>ですね。そこが妙に人気なんですけど、私はあまりピンと来てない(笑)。うちのドラムのミツヤスには「ここのフレーズは良いけど、サビの1行目は良くない」みたいなことを言われて。私は1行目のほうが良いと思っているから「バカバカバカ。Bメロからの流れがあって<ねえ、どうかしたんでしょう?> どうかしたって言ってよ!っていうサビやん!お前は何もわかってねぇ!一生口出しするな!」と、1言われて100返しましたね(笑)。

「FICTION」は全体的にお気に入りです。この曲って、本当にやりたいことをやれてないのに現状維持しちゃってない?という歌詞で、今置かれている状況を夢だと思ったらなんでもできちゃうぜ!ってことを歌っていて。その核を表現できたのが<美しくてモノクロだと気付いていないこともあるのさ>というフレーズだと思いますね。メッセージ性と美しさの両方を表現できたなと。

そして、今回いちばん歌詞として好きなのが「SQUEEZE」ですね。この曲のサビとか、バカみたいなので大好きです(笑)。私、バカみたいな歌詞のほうが好きかもしれない。歌っていて何にも考えずに楽しいし。

「阿吽」は<君と見てると月が綺麗だよ>のフレーズが異常に人気なんですけど、これも私はピンと来てない。私は<あのとき君が聴いていたポップは 本当はもっと、君を泣かすのさ>が好きなんですよ。音楽って状況次第で、まったく聴こえ方が違うよってたとえ話をしているところがエモくて。<月が綺麗だよ>なんて夏目漱石の引用だもん!ひとの言葉をパクったところがいちばん人気というのは複雑ですね(笑)。

「JET」は<夏>という表現を使っているんですけど、春先のタイアップだったんですよ。だから夏のことを歌っているわけではなくて。実は“あなたと過ごしたエモい想い出”のことを<夏>と言い換えているだけで。その表現が、あまり伝わっていないけれど、個人的には気に入っています。

「ストップ・モーション」はねー、2番Aメロの<あの日休んだ学校の 小さな冒険が浮かぶ>ってところ。学校を休んだときって、ちょっと冒険みあるじゃないですか。今日はみんなとちょっと違うぜ自分!みたいな。そういうワクワク感を歌詞にできたので好きですね。普段、実体験はほとんど入れませんけど、ここはワンパク小学生の私が出ちゃったかもしれないフレーズですね。

「さよならイエロー」は、クライアントさんにも気に入ってもらえた歌詞ですね。これは<ゲームばっかしてないで踊ろうよ>というフレーズが好きなんですけど、ここはもう自分の人生をかけたボケです(笑)。歌詞を書いたお前がいちばんゲームしとるやん!っていうね。

「化身」は<シネマスコープの白昼夢>というフレーズがあるんですけど、MVをシネスコにすると決めていたので、この言葉を入れられたのはオシャレかなって思います。そして「何者」は、今までのポルカ楽曲の歌詞をかき集めただけなので、何もないです(笑)。ファンの方は嬉しいかもしれないですね。

―― 「何者」は最初から最後まですべて他楽曲からのフレーズですか?

はい、全部。ひと文字も残さず今までの曲から引用しました。楽器のフレーズもわりと今までの曲から。この曲は完全なファンサですね。まぁ今回はタイアップが多いから、新規のファンの方も多いと思うんですよ。だからあえて、タイトルトラックでファンサをしてみました。

―― ありがとうございました!最後に、雫さんがこれから挑戦してみたいのはどんな歌詞ですか?

フランス語とかドイツ語を使った歌詞かな。日本語と英語は喋れるけど、それ以外の言語は喋れないから。自分が喋れない言語を取り入れた歌詞に挑戦してみたい。そうしたら発音やアクセントの置き方が変わるから、メロディーの作り方も変わるんですよね。これはいずれやってみたいことのひとつです。


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