築いてきた“らしさ”と吹っ切れた“初めて”が詰まった全6曲!

 熊本発、熱血で感動を呼ぶ【超共感型】4人組ロックバンド“BLUE ENCOUNT”が、ニューミニアルバム『SICK(S)』をリリースしました。今回のインタビューにはボーカルの田邊駿一がご登場。ブルエンといえば熱く強く前向きな応援歌が多くのリスナーから支持されてきましたが、時には歌詞を書く際に、その“らしさ”を考えすぎてしまうこともあったと明かす彼。しかし今作は“らしさ”の魅力はそのままに、これまでの楽曲にはなかった“初めて”もたくさん詰まっているんです。ライブと違わぬ熱量で語ってくれた、ひとつひとつの楽曲への想いを是非、受け取ってください…!

(取材・文 / 井出美緒)
ハウリングダイバー作詞・作曲:田邊駿一「あとどれだけやれば報われるの?」 イヤホンで隠した誰かの言葉最大限で吠えろよ さぁほら 混沌とした歴史を壊せ ダイバー
最前線で生きろよ まだまだ 何も始まっちゃいない
高鳴りに背を向けるな
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憶測や論争を呼ぶ歌詞って、今までのブルエンにはあまりなかった。

―― 歌ネットの『“中学校”校歌特集』では、田邊さんの母校の校歌についてのコメントをありがとうございました!中学では全校朝会で校歌斉唱の指揮者もなさっていたとのことですが、その頃から音楽はお好きだったのですか?

まず小学生の頃からカラオケがめちゃくちゃ好きで。家族も歌が好きなので、よく連れて行ってもらったんですね。中学生になってからは、お小遣いを貰うようになり、毎週土日は友達とカラオケに行っていました。だから音楽というより、ただただ歌うことが大好きだったんです。あと、あの校区で一番歌が上手かったという自信もあって(笑)。結構、人気者だったんですよ!みんな「田邊とカラオケ行きたい!」って誘ってくれるし、音楽の時間も僕の取り合いだったりして。あの頃、ハモネプが流行っていたこともあり、合唱コンクールの取り組みもまるでスポコンでしたね。歌に関する良い思い出は、すべて中学のときに詰まっている気がします。

―― 小学校、中学校と歌は日常のとても身近なものだったんですね。

そうなんですよ。だけど、周りにちやほやされたい目立ちたがり屋ではあったものの、歌で世に出たいという気はありませんでした。バンドをやりたいとも全く思わなかったんですよね。何故かバンドに対して、怖くて危ないというイメージしかなくて。中学の頃はSMAPさんとか浜崎あゆみさんとか、あとはヒットチャートの歌ばかり聴いていました。そのヒット曲のなかでも、バンドものはあまり聴かなかったくらい遠い存在でした。それが高校1年生の4月、TSUTAYAで“椎名林檎”さんのアルバムをたまたま借りたんです。そうしたらもう、その日から椎名林檎信者になりまして(笑)。東京事変も含め、あらゆるCDやスコアブックを買い。それまで触れたこともなかったギターまで買い。

―― バンドへの目覚めのスイッチを林檎さんに押されたような感覚でしょうか。

photo_01です。

そうそう(笑)。だから高校生になって、最初にコピーしたのも椎名林檎さんの曲でしたね。当時は、ちょうど東京事変がデビューした時期でもあったので「群青日和」とか「遭難」とかもやっていました。懐かしいなぁ。今でもたまにフェスの転換のとき「丸の内サディスティック」をやったりしますよ。本当に大好きなんです。で、そうやってバンドサウンドに出逢い、そこからアコースティックギターを触るきっかけになったのは森山直太朗さんの音楽でした。軽音部に入ることにして、今のバンドメンバーに出逢って、自分で音楽を作り始めたきっかけも直太朗さんなんですよ。

―― 森山直太朗さんの音楽はどのようなところが刺さりましたか?

言葉の綺麗さというか、まさに“詩”だなー、という感じが好きで。直太朗さんがインディーズの頃からずっと聴いていました。好きな曲はたくさんあるんですけど、シンプルなのだと「高校3年生」とか。高校3年生のカップルが別れそうな切ない感じで、結構キュンキュンする内容なんですよ。それを僕は高校の頃、好きな子の前で歌ったりとかもしました(笑)。そういう思い出もリンクしている、自分にとって大切な曲でもあります。

ブルエンの歌詞は、わりと直太朗さんと真逆なんですよね。ダイレクトな心情描写というか、感情をそのまま吐き出すようなものが多い。でも実は、散りばめているワードには直太朗さんの口語的な手法を使っていたりもするんです。あの方には、生粋のフォーク魂があって、本当に言葉を大事にされているので、そこはブルエンのルーツになっていると思います。去年、僕が司会をやらせていただいているテレビ東京の番組に、森山直太朗さんに来ていただいて。そのとき、ジャンルは違えど歌詞から影響を受けているということを伝えることができたので嬉しかったですね。「歌詞書いていてよかったー!」ってめちゃくちゃ喜んでくれました(笑)。

―― では、田邊さんが一番最初に作った曲って、どんな歌だったのでしょうか。

えっとねぇ…これ恥ずかしいんですけど、はっきり覚えています(笑)。高校のとき、ブルエンの前身バンドがあって、僕はコーラスのような感じで、もう一人メインボーカルがいたんですよ。そいつがもうジャイアンみたいなやつで!「俺が歌えない歌はお前が歌え」みたいな。それであるとき彼が「みんな1曲ずつオリジナルを作ってこい」と言ったんですね。で、僕はそのとき相当イライラしていたんですよ、彼に。その結果、生まれたのが“「トータルシェイド」=すべて闇”という曲で(笑)。

―― タイトルから病んでいらっしゃいますね(笑)。

歌詞もめちゃくちゃ病んでいるんですよ。強烈すぎて未だにドラムの高村とかも覚えているくらい。サビがね<安否不明な未来の中で 誰かが今助けを求めている 折り重なる影の季節は 怒りへ変わる>っていう…(笑)。高校2年生が書く内容じゃないですよね。まぁそれを初めてオリジナル曲として作って、ライブでも歌ったわけですが、自分で歌いながら「なんやこれ!」って思っていました。なんかそれっぽいことしか言ってないし、ただただ雰囲気重視で、まぁダサかった。

―― ただ、今回のアルバム収録曲は“「トータルシェイド」=すべて闇”ほどではないものの、いつものブルエン楽曲よりも闇が深めな気がしました。

そうなんですよ!とくに「幻聴」は負の部分をあえて強めに表現したりとか。総じて言ってしまうと、今回のアルバムではやっと歌詞に自分を曝け出せたなって気持ちが大きいんですよね。なんで今まであんなに守っていたんだろうなって。よく「絵を描くと心情が無意識のうちに反映される」って言うじゃないですか。意図せずともダークな色しか使ってなかったとか。それって歌詞も同じなんだなぁって。自分の感覚や背負っているものが、顕著に出るんだなぁって。それを表現できるのは、アーティストに与えられた特権だということにやっと気がつきました。その特権を無駄にしちゃいけないと、今回6曲を書いていてすごく感じたし、アーティストってめっちゃ楽しい!って遅かれながら思えたんです。

―― 今までは「アーティスト」を楽しめないご自身もいたのですか?

はい。逆に嫌でしたね。こう…「自分は芸術家です」って口にするのも、それが作品に表れるのも、拒んでいる自分がいました。今思えば勝手な思い込みなんですけど。でも今回は、こういう感覚がいわゆる“アーティスト冥利に尽きる”ってことなんだなぁって初めて感じた気がします。作詞がすごく楽しかった。あと、本当に言葉って面白いなとも思いました。発信者が出したものが答えであり、でも受け止めたひとの解釈も答えであり、いろいろな広がり方があるんだなって。今回、僕のTwitterで曲のセルフレビューをしていまして。

―― 拝読しました。先日は「幻聴」についてツイートなさっていましたね。

そこに、僕の印象的な歌詞としてこの歌のサビフレーズを書いたんですけど、何人かのファンの方が「“あなたの価値”じゃなくて“あなたの勝ち”なんですか?」ってコメントをくれたんですよ。「価値と勝ち、どっちが正解ですか?」みたいな。もうその時点で、歌詞ってすごいなって思いましたね。僕はまったく疑うことなく正解だと思ってこのフレーズを書いて。だけどそうじゃない正解を持っているひともいて。それってまさにこの歌詞が言っていることじゃん!って。

そういえば僕も森山直太朗さんの歌詞を読んでいるときに「え、これって正しいのかな?」って思ったこともありましたし。なんなら「もっと良い言葉あるんじゃない!?」とまで思っちゃうような作品って結構どのアーティストさんにもあるじゃないですか。でも何年後かに聴いたら「あ、こういうことだったんだ」ってふとわかる瞬間もあったり。それぐらい憶測とか論争とかを呼ぶ歌詞って、今までのブルエン楽曲にはあまりなかったんですよ。

というのも、僕はわかりやすく0から100まで説明をするような歌詞を書くタイプであり、それがブルエンの良さでもあったと思うんです。だけど今回の収録曲には、聴いてくれたひとが考える余白の部分が多い。そこは新しいかもしれませんね。でもそれは後々気づいたことであって、書いているときはひたすら自分自身の内面にフォーカスを絞っていた作詞をしたので、この年で無意識のうちにそういう自分が出たということが嬉しかったですね。

―― 年齢を積み重ねると、書きたいこと自体も変わっていったりしますよね。

本当そうですね。今回の楽曲はどれも10年前には書けなかったと思います。あとやっぱりね…なんというか…活動を重ねてきたからこそ、自分たちの立ち位置でフィルターをかけないといけないときもあるんですよ。言い過ぎちゃダメだし、あまりマイナスなことを想起させるのは僕らのライフワークとは違うし、そういう“ブルエンらしさ”というところはすごく考えてやってきました。そんななかで今回は、うまいことすべてのバランスを取って、アーティストとして言いたいエッセンスを入れることができたように思えるんです。自分の内面を主観で見つつ、俯瞰で見る。その両方の作業を何回も繰り返しましたね。その結果、今までで一番時間はかかったけれど、一番満足のいく歌詞が書けたと思います。

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