buzzGさんのトークテーマ
どこで楽曲のテーマを仕入れていますか?

buzzG:俺は基本的に外に出ないから、テーマが偏りがちなんですよ。となると、いちばんの仕入れ先は映画。たとえば、ひとになり替わろうとしているアンドロイドを描いたホラー映画があるんですけど、そこから着想を得たこともあります。重音テトSVが出たとき、いちばん最初に書いたのがそういうイメージの曲です。

― そのホラー映画をどのように取り入れたのですか?

buzzG:Synthesizer V (シンセサイザーブイ)のエンジン自体がかなりリアル寄りだとすると、その中でも重音テトSVってどちらかと言えばボカロ寄りなんですよ。だから、重音テトSVは、リアルになりきれてないというか。それでそのホラー映画を観ているときに、「重音テトSVってこのアンドロイドみたいな存在だよな」と思って、テト用のテーマ曲のような感覚で書いたんですよね。ねじ式さんは何をテーマにするの?

ねじ式:小説や映画もあるけれど、友だちの恋愛話かな。もう最近はガクンと減ったけれど(笑)。たとえば、こっぴどく振られた話とか、言葉のニュアンスが伝わらず、気持ちがすれ違ってしまった話とか、LINEが激化していく様子とか、自分の体験も含め、いろんなひとの実話が引き出しのなかに蓄積しています。生々しい温度感の話を聞くと、心に響いて残るから。「あ、この曲にはあの話を使おう」と引っ張ってくることが多いですね。

Heavenz:僕は、SNSやニュースを見たときの、誰かが怒ったり傷ついたりしている負の感情からインスパイアされることが多いかもしれません。その思いを代弁したり、「こういう解決方法があるのではないか?」と模索したり、心理的な歌詞を書くことが多い。だから、時事ネタに対するみんなの反応や感情は、よく見ています。あとは、ゲームが好きなので、ファンタジー的な世界観からテーマを持ってくる。その2パターンかな。

― 現実世界での出来事は歌詞にどう落とし込むのでしょうか。

Heavenz:仮想の物語を作ります。現実のニュースに似たような事例をストーリーに組み込んで、歌の主人公を歩ませる。そして、落ち込んだ底からどうやって引き上げるか考えるんです。僕は、歌詞はハッピーエンドであってほしいので、解決に向かうための道筋を歌詞として描いていくイメージですね。

インタビューカット6
ハヤシケイ

ハヤシケイ:僕は先ほどお話したように、自分が思っていることしか書けないから、テーマというとなかなか難しいのですが…。なるべく物事を斜めや裏側から見るようにはしていますね。たとえば、「雨上がりには虹がかかる」って歌詞にもよくあるじゃないですか。でも、現実で雨上がりに虹がかかることって少ないし、地面で死んでいるミミズがものすごく目立つんですよ(笑)。

buzzG:綺麗に歌われがちだけど、本当はむしろ汚い、みたいなね。

ハヤシケイ:そうそう。そこから、「このミミズにとって雨上がりって何だろう?」と考えたり。あと、僕の好きな映画に『アルプススタンドのはしの方』という映画があるんですけど、高校野球をテーマにしていながら、野球のシーンはないんです。応援に来ている女の子と、元野球部の男の子が試合を観ながら喋っている。そういうのが僕は好きだなと。

ねじ式:いい斜め感だね。

ハヤシケイ:甲子園のテーマソングといえば、試合で頑張っている選手とか、悔し涙を流しながら砂を集めている選手とかにスポットがあたりがちじゃないですか。でも、3年練習しても試合にすら出られなかったひともいるし、部活を辞めたひともいるし、炎天下で嫌々ながら応援に来させられている生徒もいるし、そういう奴のための歌もあるよなって。だから「自分くらいは正面じゃなく見よう」という気持ちで書くことが多いですね。

― なぜ、その視点が培われたのでしょう。

ハヤシケイ:「凡人だな」という自認があるからだと思います。僕は天才ではない。天才の人たちに対してずっと、「いいな、羨ましいな、カッコいいな」という気持ちがありました。でも、「天才はきっと凡人の気持ちはわからないだろうな」と思うようになっていったんですよね。それでだんだん、「世の中の99%が凡人なのであれば、凡人にしか書けない視点の凡人のための歌を書こう」という思いが自分の芯として強いものになっていきました。

ねじ式:“凡人の視点”を拾うことができるのも、やはり才能なのだと思います。そして、ボカロ曲はわりと、「その視点があったか」と思わされるような視点の歌詞が、他のジャンルより多い気がしませんか?

ハヤシケイ:とくに自主制作の場合、売れるかどうかより、本当に個人的なパッションだけでやっている世界ですからね。

buzzG:うん。逆に、商業作品はセールスに向かっていくものだから、おのずと真正面の視点になる。

ねじ式:ボカロ曲って、自分へのセラピーみたいなところもあるし。

ハヤシケイ:セラピーってわかるなぁ。

Heavenz:傷とかトラウマを持っているんだろうな、みたいなひとが多いですよね。

ねじ式:その体験や感情が純度100%で出てくるから、メジャー作品を凌駕する熱量を感じることがある。

ハヤシケイ:原液ですからね。

ねじ式:この長いボカロ楽曲の歴史では、メジャーのJ-POPで触れないようにしているところ、もしくは触れられないところを、あえて作品にしているものもかなり多いですよね。

ハヤシケイ:ボカロが出てくる前って、ひとりで音楽をやることはかなり難しかったと思うんです。バンドを組んだり、大人に下支えをしてもらったりしないと。でも、ボカロは完全にひとりで完結できる。ひとりで作ったものが、みんなに聴かれるって、かなり特殊な環境ができあがったんじゃないですかね。極端な話、引きこもりでも世界に行けるというか。するとやはり濃度の高いものが出てくるんでしょうね。

ねじ式:自分以外は誰もチェックをしない、ノー検閲で世界に出てくるわけですからね。

ハヤシケイ:そういうものを聴くことができるところも、ボカロのワクワクするところだなと思います。

― 逆にボカロ界での“暗黙のルール”みたいなものはあるのでしょうか?

buzzG:ないんじゃないかなぁ…。

ねじ式:あんまり忖度もしないし。

buzzG:ジャンルの幅も広いし。かつてはともすれば敵視していたジャンルさえも、今はボカロであり、共存している。

ハヤシケイ:みんな関係がいい意味で希薄ですよね。それもまた独立独歩でやっているからだと思います。

Heavenzさんのトークテーマ
歌詞が煮詰まって浮かばなくなったときの対処法は?

Heavenz:みなさんも特効薬はないと思いますが、何かしらヒントがあればなと。ちなみに僕は単純に書く場所を変えます。普段はパソコンの前で歌詞を書いているけれど、たとえば後ろにあるソファーに座ってみたり、カフェに行ってみたり、紙に書いてみたり。そうして気分転換をするとふっと浮かぶことは多々ありますね。

ねじ式:僕もHeavenzさんと似ていて、散歩をするかな。近くの公園のベンチで書いたり、公園のまわりをグルグルまわっていたりすると、思い浮かぶことがある。でも、あんまりそればっかりやっているから近所のおばあちゃんに、「あんた、そろそろ働け!」って言われたことがあります(笑)。

ハヤシケイ:一応、労働中ではあるんですけどね(笑)。

ねじ式:そうそう。「俺のなかでは重労働なのに!」と思いましたが、たしかに公園でぶらぶらしては、ローソンで買ったからあげクンを食べたりしていたのが、よくなかったんでしょうね。そのおばあちゃんが、「仕事がなくても気を落としちゃあかんよ。何かあると思うから」って。それ以来、行く公園を変えました。

ハヤシケイ:僕は最近、ChatGPTと相談しています。

Heavenz:それは今の時代、いちばん賢いですね。

ハヤシケイ:「これどうかな?」って投げて、感想をもらったり、「こういう気分のとき、こういうひとならどう考えるかな?」というシミュレーションをしてもらったり、ブレインストーミング的なことをしています。

ねじ式:有能な部下であり、仲間であり。たしかにいいですね。

buzzG:自分はわりと脳筋タイプ。とにかく書けるまで書く。ただ、プライベートでイヤなことがあると、一気に書けなくなってしまうんですよ。だから、作詞のときの環境づくりは普段から気をつけているかな。

ねじ式:イヤなことがあると書けなくなるの? それがエネルギーにはならないんだ。

buzzG:別のことで悩んでいると、歌詞に気持ちが向かわないから、絶対に書けない。だからそういう状態にならないようにしています。

ハヤシケイ:たしかに…。本当にしんどいことがあると、作詞も作曲もまったくやる気が起きないのはすごくわかります。

Heavenz:作詞ってかなり精神的な作業ですもんね。

ねじ式:ある程度の余裕がないと、作詞なんてとんでもないところはあるのかもしれないね。

― 「ボカロは独立独歩」というお話もありましたが、すると自主制作の曲づくりの完成基準はどこになりますか? 時にはどこまでも追求し続けてしまいそうな気がしますが…。

ねじ式:だからこそ、「ここで投稿したい」という日を自分で決めています。すると、絵師さんに依頼するボーダーラインも見えてくるので、自然と締め切りができてくるんですよね。

buzzG:自分の場合も、「3ヶ月に1回、必ずボカロ新曲を作る」とか自分のルールを決めています。そうしないと、ずっとゲームしちゃうから。

ハヤシケイ:わかる。締め切りがないと仕事できない。

buzzG:「時間があるときでいいので、お願いします」って依頼されたら、一生できない気がする。

ねじ式:僕も「時間あるときにお願いします」という依頼は、「それは基本着手しませんが、それでもいいですか?」と返信します(笑)。書き下ろしであるなら、「ちゃんと締め切りを決めて、仕事にして」って。

Heavenz:ああ、たしかに僕も距離が近いひとにこそ、しっかり伝えますね。

buzzG:「時間あるときで」って、俺である必要があるのかな?とも思ってしまうよね。

ハヤシケイ:うん。向こうはよかれと思って言ってくれているんだろうけれど。大体のひとはみんな怠惰ですから(笑)。締め切りなり、何かに尻を叩いてもらったほうがいいですね。