祝10周年!これを聴けば“阿部真央”の軌跡がわかる全36曲!

 デビュー10周年の“阿部真央”がベストアルバム『阿部真央ベスト』をリリース!今作には彼女の名曲たちがリリース順に収録されております。最初はボツにしようと思ったものの、思いがけず大人気曲となったというあの曲。デビュー後しばらくは「○○っぽい」などと言われ続けていたなかで、初めて“阿部真央らしさ”を掴めたというあの曲。是非「17歳の唄」と対比しながら聴いてほしい「28歳の唄」という新曲。阿部真央の軌跡が丸ごとわかるベスト収録曲についての想いを、じっくりたっぷりと語っていただきました!

(取材・文 / 井出美緒)
貴方の恋人になりたいのです 作詞・作曲:阿部真央 「バイトはなんですか?」「彼女はいますか?」
聞きたいことはたくさんあるわ
夏は貴方と落ち合って一緒に花火を見たいです
厚かましい願いではありますが、貴方の恋人になりたいのです
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アラサーの恋って、夢ばかりじゃないじゃないですか。

―― 10周年おめでとうございます!阿部真央さんの歌詞は、多くの方に支持され続けておりますが、デビュー当時はどんな音楽を作っていきたいという想いがありましたか?

前置きが長くなってしまうんですけど、もともと私はシンガーソングライターになりたかったわけではなくて、小学校高学年から中学を卒業するまでの5年くらい、シンガーのオーディションを受けていたんです。aikoさんや宇多田ヒカルさんのカバーを歌って、デモテープをレコード会社に送ったり。でも、まったく受からなかったので、もう音楽は諦めようかなと思っていました。そんな矢先、高校に進学するタイミングでそれまでやっていたピアノをやめて、好きだったアヴリル・ラヴィーンのカバーをする目的でギターを始めたんですね。歌手になりたいという夢は薄れていたんですけど、音楽にしがみついていたいという気持ちはどこかにあって。それから、アマチュアミュージシャンの友達が増えていくなかで「真央もオリジナル曲を書けばいいのに」って言われたんです。

photo_01です。

で、たまたま作った曲が、たまたま今所属しているヤマハのコンクールとかで評価されて、シンガーソングライターとしてデビューできることになったんですね。でも、そういう経緯なもんだから、そもそも「こういう音楽を作りたい」という気持ちが一切なくて。むしろ「私は自分で曲を書くというオプションがないと、歌手にはなれない人間なんだな」ってガッカリしたのを覚えています。だけど、何を書けばいいのかわからないなかで、当時のディレクターさんに「思うことを歌詞にすればいい」って言われまして。なので、デビュー初期の楽曲には、大して伝えたいメッセージがあったわけではなく、ただただ実体験とか感じたままの喜怒哀楽を書いていましたね。

―― そのような経緯でデビューしたものの、真央さんは10年間、毎年新曲を出し続けていますよね。スランプ期などはなかったのでしょうか。

いや、おっしゃるとおりスランプ期も結構ありまして。とくに3枚目のアルバム『素。』を制作するときは、それまでの2枚のアルバムでもう学生時代のストックを使い切ってしまっていたので、アルバムのために新たに曲を作るということを初めてやったんです。まずストックがない不安があったし、ツアーなども並行してやっていくなかで書く時間もマインドもなかなか作れなくて、相当大変でした。でもまぁ、その疲れた気持ちを曲にした「モットー。」が生まれたりもしたので、やっぱり3枚目のアルバムもわりと1、2枚目のアルバムと作り方は似ていた気がします。まさに“素”が歌詞にも出ている感じ。

―― では、活動していくなかで“書きたいもの”が変化してきたタイミングはありましたか?

息子が産まれるちょっと前から、フィクションの世界を歌詞に書くのもありだと自分に許可し始めましたね。活動の中期以降、2015年のアルバム『おっぱじめ!』くらいのときかな。それまでは実体験をもとにしか書いていなかったし、それを評価されていたので、実体験を書かなければいけないって思い込みがあったんです。でも、年々その考えが柔和になっていって、フィクションに対する苦手意識が薄れていったという変化はあります。あと、息子が産まれてからは、母になったからこその感覚で書ける曲、書きたい曲ができたのは大きな変化かな。ただ、音楽性が変わったというよりも“母親として”という新たな引き出しが増えたような感覚に近いと思います。

―― 息子さんはもう、ママは歌を仕事にしているんだってことはわかりますか?

なんとなくわかっているみたいですよ。去年『YOU』ってアルバムを出したんですけど、その収録曲の「K.I.S.S.I.N.G.」と「immorality」は私の声だとわかるみたいで。ちょっと歌ったりもします。嬉しいです(笑)。

―― ちなみに私は真央さんと同年代なのですが、年々ラブソングへの自分の感度が薄れている気がしておりまして…。真央さんは恋心を書くのが難しくなってきたなぁ…と感じることはないですか?

……ないですね! わりといつも気持ちはリアルタイム的というか。私は今年29歳になるんですけど、たとえば恋愛をしていたなら、今の年齢で感じるままに自分の実体験寄りにして書くこともあれば、フィクションを織り交ぜるパターンもあって、ラブソング作りに困ったことってまだないかもしれない。逆にどうして感度が落ちてきちゃったんですか?

―― 何故なんでしょう。仕事や生活のほうが大事になったり、日常に流されたりしていくからでしょうか…。

あぁ~なるほど、それはわかります。ちょうど20代後半くらいから徐々に仕事が面白くなっていくじゃないですか。もう恋愛だけが人生の楽しみじゃないってわかっているし。あと、ラブソングの多くが、甘くて切なくてわかりやすい上澄みしか歌ってないということもあると思います。もちろん若い頃はそういうものこそ刺さるんですけど…。だって私達、アラサーじゃないですか。アラサーの恋って、夢ばかりじゃないじゃないですか(笑)。時間の限りもあるし、自分も稼いでいるし、現実的な生活もあるし。

―― そのとおりですね。

だからこそ私は自分が女性である以上、男性の耳が痛くなるような現実だとしても、この年齢で感じるリアルを大事にしたラブソングを書いていきたいですね。今回のベストには入っていないんですけど「貴方が好きな私」を出したときに、よくインタビューで言っていたのが、人の感情って“多面的”で、もっと言えば“球体”みたいなもので、同じ「好き」でもいろんな側面があるということなんです。その“多面性”をより内部まで深く掘り下げて、歌えるようになりたいとずっと思っています。

―― また、以前のインタビューで、真央さんは歌詞を書くときに“少女マンガ”から影響を受けることが多いとおっしゃっていましたが、今はいかがですか?

今もマンガは大好きなんですけど、より娯楽的な存在になっていますね。インスパイアされるためとか、音楽の幅を広げるためとかではなく。あと映画もドラマもお芝居もあまり観ないし…どうやって歌詞を書いているんでしょう(笑)。あ、でも私は常に「自分はどうやってここから生きていこうか」とか「この仕事に対してどう向き合おうか」とか前向きな悩みのようなものがあって、それと向き合っている時間が長いので、そのなかで生まれていく言葉を曲にすることが多いですかね。

とくに“鼓舞系”の曲はそうです。だから歌で言っていることは、実は昔からそんなに変わらないんですけど、みなさんが私のバックグラウンドを知ってくれているからこそ、説得力が違ってきたり。今の自分だからこそ、恥ずかしげもなく胸を張って言える言葉が出てきたり。最近はそういう面を強く実感します。

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