ドラマ“あなそれ”主題歌でブレイクの覆面4人組バンド!

 4人組バンド・神僕こと“神様、僕は気づいてしまった”が2017年7月26日に1stミニアルバム『神様、僕は気づいてしまった』をリリース!今年、ドラマ『あなたのことはそれほど』の主題歌「CQCQ」が大ヒットし、この曲をきっかけに彼らの存在を知った方も多いでしょう。インタビューには、作詞作曲を担当しているギターの東野へいとさんと、ベースの和泉りゅーしんさんがご登場!彼らは覆面で音楽活動をしており、全く正体不明なので、実際にお会いするまではどんな方々なのかとドキドキ…。しかし、素顔のお二人は互いに信頼し合い、リラックスしたムードで、バンドの軌跡やコンセプト、棘々した言葉が並ぶ歌詞について等々、じっくり語ってくださいました!

(取材・文 / 井出美緒)
CQCQ 作詞・作曲:東野へいと
一人、声に出してしまった 貴方以外はもうどうなってもいい
それ以上の声は押し込んでいた 胸の奥が張り裂けてしまうから
もうどうしようもないんだ 僕は 僕は
もっと歌詞を見る
INTERVIEW
共犯者になってくれって、呼びかけをしているんです。

みなさんはいつも覆面で活動をなさっていますが、その意図は“表情を隠したい”というところにあるんですよね。

東野:そうですね、歌っているときの表情を含め、アーティストが具体性を帯びれば帯びるほど、曲の当事者は歌う側であるように感じさせてしまって、聴く側は内容を他人事として扱ってしまうと思うんです。だから「覆面を取ったら誰だかわからない。もしかしたら君自身かもしれない」みたいな効果が出ればいいなと。

また“神様、僕は気づいてしまった”というバンド名ですが、ここでいう“神様”とはいわゆるお天道さまのことでしょうか。

東野:それもあるんですけど、安直な発想やカテゴライズを擬人化したものでもありますね。たとえば、ネガティブな感情を「メンヘラ」とか「中二病」とかいう造語に押し込んで説教たれるみたいなのって、どうなの…?と思う部分が昔からあって。そうやって思考停止してよくわからない言葉を口にするのは、人間がむやみに「神様神様」ってすがることに似ているなって。だからまずバンド名で「俺たちはそうじゃない」ということを提示したかった。それにちゃんと気づいているからこそ“神様”というものへの「ざまーみろ」感もあります。

神僕は、そのネガティブな感情と向き合って、音楽へ落とし込んでいるんですね。ただ、それこそ曲自体を「メンヘラ」とか「中二病」って言葉で片づけられてしまうこともありませんか?

東野:そう言われることも多いんですけど、思惑通りです。でもだからといって、負の感情を抱えている人たちに何かを伝えたいとか、救いたいってわけでもないんですよ。一緒に企んでいこうという思いが強いんですよね。僕らは音楽で、共犯者になってくれって、呼びかけをしているんです。巻き込んで一緒に台風みたいに大きくなっていきたいと思っています。

では、お二人が一番最初に音楽を始めようと思ったきっかけは何でしたか?

東野:音楽自体を始めたのは、高校生の頃ですね。当時、何かやれることはないかと考えたんですけど、趣味って複数でやらないと成り立たないものが多いじゃないですか。スポーツとかもそうだし。だけど、音楽は一人でパソコンで出来るからと思って始めました。

和泉:ちょっと昔だったら結局、最初からバンドを組むしかありませんでしたよね。東野のきっかけは珍しいタイプだと思っていて、僕は、普通のバンドマンらしく、いわゆる偉大なミュージシャンたちに憧れたことがきっかけですね。それで友達とバンドやろうって始めて、それが趣味になっていった感じです。

東野さんと、ボーカルのどこのだれかさんは、曲の性質などは似ていたのでしょうか。

東野:最初は違った気がしますね。でも、これはありがたいことなんですけど、お互い知り合う前に、彼は僕の曲を聴いてくれるようになったタイミングがあったらしく、そこで「こういう曲を作りたい」って思ってくれたみたいなんです。僕の方もしばらくしてから彼がソロ活動をしていることを知って、聴いてみたら「すごい良い曲を書くじゃん!」って。それでお互いだんだん歩み寄るようになった感じですね。

ご自身がソロでやっている音楽と、神僕でやっている音楽、歌詞の面で違うところはありますか?

東野:やっぱり自分が思ってないことを書くのは難しいので、内容は変わらないのかもしれませんね。でも、言葉に対してのサウンドの結びつきは決定的に違うと思います。僕がソロでやっている音楽は必ずしもロックではないので、たとえばポップスに自分の歌詞を乗せたら、本来はポップスにない毒が言葉によって補われるようなイメージがあります。でもバンドでは、尖った歌詞をギターに乗せることで、オオカミみたいな攻撃的な音に聴こえたり、言葉とサウンドがお互いを助長し合っている感覚です。

期待って結局、自分で何も行動してないってことだし。

今回のアルバム、曲によっては、どこのだれかさんの歌声が女性の叫び声のようにも聴こえるなぁと思いました。お二人は、彼の歌声をどのように感じていますか?

和泉:どこのは、結構キーの上から下までどこからでもいろんな声が出せる人で、東野の言葉を受け取って、どう歌うかということをめちゃくちゃ考えていろんな表現をしているので、良い組み合わせだと思います。

東野:自分で言うと気持ち悪い話になるんですけど、僕の作った歌は彼の歌声を求めているし、彼の歌声もまた僕の歌を求めているんじゃないか、みたいなことが書かれていて、その記事を読んだとき、たしかにそうかもしれないと思いました。それから彼の歌声に対して、そういうことを意識するようになりましたね。

アルバム収録曲「CQCQ」はドラマ『あなたのことはそれほど』の主題歌として大ヒットしましたが、東野さんは、どんなことをテーマに書きましたか?

東野:タイアップであるのに、俺たちはこういうバンドだぜ!みたいな曲を持っていっても、それは主題歌である意味がないし、相手に失礼だから、ちゃんとドラマのための歌を書きたいという思いは第一にありました。でも、100%ドラマの内容だけをなぞった歌詞だと、今度は自分たちである理由がなくなってしまうんですよね。それなら僕のソロの曲でも良いってことになるし。だから、このバンドである意味も持たせたいなってちょっと欲張りな気持ちもあって。どちらも両立させるのは大変だったんですけど、そこはこだわりましたね。

<貴方以外はもうどうなってもいい>や<もうどうしようもないんだ 僕は>というフレーズのひとつひとつが、毎回ドラマの美都や涼太の心情とリンクして感じられました。歌詞を書く上で、とくに思い入れたキャラクターはいるのでしょうか。

東野:原作者のいくえみ綾さんが、原作漫画作品を通じて伝えたいことが絶対にあると思うので、そこにフォーカスをあてた歌詞にしたくて。主要な登場人物4人に共通して言える、人間の矛盾を描いたんです。だから特定の誰かに寄せた部分とか、共感とかはないですね。

和泉:僕もドラマ全体に一貫するテーマを歌詞から感じました。あの4人だけじゃなくて、その他の登場人物にも共通するような感情が歌詞になっているような気がしました。もっと言えば、現実世界の人みんなに当てはまる歌詞だと思います。

また、「CQCQ」に限らず、今回のアルバム収録曲の歌詞には“もういい”というフレーズがよく登場し、曲の主人公たちはみんなどこか未来を諦めている印象を抱きました。でも一方で、誰かに<聞こえますか>というような救いも求めているんですよね。

東野:それは多分「期待するのはやめろ」という意味を込めての“もういい”が多いです。未来に期待したって、何も変わらない。期待って結局、自分で何も行動してないってことだし。だからまず、ダメならダメなことを受け入れて、能動的に動いていかなきゃと思うんです。とはいえ、救いを求めてしまうのも仕方ないことですよね。でも、実際に手を差し伸べたら照れるし、ぬか喜びも怖いし、誰かに頼りすぎて周りが見えなくなるのも怖いし…。そこは一つの感情では説明しきれないというか、難しいなと思います。

和泉さんは、このアルバムでどの曲の歌詞がとくに印象的でしたか?

和泉:「大人になってゆくんだね」のDメロにあたる<空きになった友の一軒家 改装中のゲーセン 土砂降りで雨天中止の夏祭り 亡くなった知人の一周忌 卒業後の廃校舎 まるで今まで嘘のようだった>というフレーズは、かなり具体的な描写なので誰もがその光景を想像できるんじゃないかなと思います。僕も自分が実際にそれを経験したわけじゃないんですけど、でも何故かすごく感情移入できる歌詞なんですよね。他の曲もそういうものが多いかな。

今回は作詞作曲をどこのだれかさんも手掛けていますが、東野さんの歌詞との違いを挙げるとすると、どのようなところでしょうか。

和泉:東野は、たとえば「わたしの命を抉ってみせて」のように架空の主人公を立てて、ストーリーを作って、結果的に言いたいことは芯にあるけど、その物語から読み取ってね、という歌詞がわりとあると思います。でもどこのは結構「宣戦布告」みたいに、抽象的な描写からひたすら自分を省みるような歌詞に振り切っている感じがしますね。

東野:たしかに具体性の違いというか、表現方法の違いはあるかも。彼の歌詞は僕が考えていることそのものではないので、違うと言えば全部違うし、でも、それこそさっき和泉が言っていたように、自分が体験したことじゃないけどわかるなぁ…というところもあるし。だからはっきり何かが違うというよりも、グラデーションみたいな感覚ですね。

棘々した言葉の収音性能はとても良い気がします。

東野さんが歌詞を書くときに一番大切にしていることは何ですか?

東野:僕は基本的にメロディーが先なんですけど、それをどんなに一生懸命に作っても、歌詞でぶち壊したら台無しになるじゃないですか。だから絶対に、言葉でメロディーを壊さないようにするということにはすごく気をつけているかな。歌詞は、メロディーをより美しく聞かせるための手段だと思っています。

まず音ありきの歌詞なんですね。

東野:そうですね。たとえば「箸」と「橋」ってひらがなで書くと同じだけど、発音も意味も違いますよね。だから「橋」を描きたいとしても、下がるメロディーにそれを入れてしまうと「箸」に聴こえてしまうんですよ。それが日本語の怖いところで。僕は歌詞カードを読まなくても、ちゃんと言葉を聴きとってもらえるようにしたいと思っているから、絶対にそういうことが起きないようにしたい。だからすごく言葉選びは気をつけるし、もし「橋」がダメなら、他にメロディーに当てはまる違う言い回しはないか考えます。

和泉さんにとって、東野さんの歌詞の魅力とは何でしょうか?

和泉:東野の歌詞は、すごく感情移入できるしやすいというところ。バンドのコンセプトとして、苦悩を抱いている人たちを巻き込んでいくということを掲げていますけど、それを抱いているのはやっぱり若い人たちが多いじゃないですか。だから、若い人たちが聴いたときに、最も力を発揮する言葉なのかなって思います。

言葉の影響ってどんなところから受けることが多いですか?

東野:どういう言葉が好きかという話になってしまうんですけど、針があるワードにはどうしても影響を受けるというか、歌詞にも使ってしまいますね。ニュースとか、映画とか、本とか、いろんなものから、まだ誰も歌詞に入れてなさそうだけどカッコいいような言葉がスーッと入ってきて、ずっと頭から離れないってことがよくあります。僕、棘々した言葉の収音性能はとても良い気がします。

では、お二人が歌詞がいいと思うアーテイストや楽曲を教えてください。

和泉:最近は“NakamuraEmi”さんですね。『NIPPONNO ONNAWO UTAU』というアルバムタイトルなんですけど、中でも「大人の言うことを聞け」って曲が、とてもカッコいいです。歌詞だけじゃなくサウンドも。

東野:僕は洋楽の歌詞になってしまいますが、最近聴いていて歌詞が響くなぁと思ったのはALL Tvvinsというアイルランドのアーティストの「Alone Together」という曲ですね。すごく内向きな歌詞で。日本語で伝えるのが難しいんですけど<Kick it down>というフレーズが出てきて、できるだけ下へ蹴り落としてくれ、底なんてない、<There's no limit to it>って歌うんです。洋楽で歌詞が良いって思うことはあんまりないんですけど、これは言葉とサウンドが相まって、ちょっと泣きそうになりましたね。

ありがとうございました!では、最後に歌ネットを見ている方へメッセージをお願いします。

和泉:東野の言葉を借りれば、いろんな人に<共犯者>になってもらって、どんどん巻き込まれていってほしいと思います。僕たちは、ライブと曲作りでこつこつとバンド力を高めながら、健康第一で頑張りたいですね。

東野:そうだね、早寝早起き!ケガや病気に気を付け、掃除洗濯、一日三食。生活がダメだと人間は心も落ち込みますからね。まず日常を丁寧に生きて、音楽をやっていきたいと思います。