INTERVIEW
でも、桜井さんには敵わないとかは言いたくないんだよなぁ

歌詞を書くときに一番大切にしていることはなんでしょうか。

柴田:それも最近変わったんだよなぁ。昔は瞬発力のある言葉が好きだったんですよ。タイトルだと「中年かまってちゃん」とか「CからはじまるABC」とか。歌詞も<エロサイトの深夜サーバーに負荷がかかって つながらんのは俺がひとりじゃないから>…オモロッ! <爆音でチャットモンチーを聴いた>…オモロッ!みたいな(笑)。そういう“オモロッ!”って感覚を大事にしていました。

インパクトが強いですし、固有名詞がよく登場しますね。

柴田:そう、固有名詞が好きだったんですよ。イメージがはっきりしているから広げやすいし。でも最近はそういうのが一番大切にしたいところではないかな。それよりも、簡単な言葉でもいいから、感情の奥深くにあるものを説明したいです。単純におもしろおかしく「悲しいよー!」って歌詞はちょっと今、自分が作るものとしては違う気がしますね。そう考え方が変わったのはやっぱり「いいひとどまり」ができたからだと思う。俺はこれから、なんらかの感情があったときに、もっと因数分解していきたいというか、それが生まれた理由まで降りていきたい。なんでそういう気持ちになったの?なんで?なんで?って。心の奥の奥の方へ行きたいし、そこで見つかったものを歌にして表現したいって気持ちが強いです。

ちなみに、メンバーの梅津さんは歌詞についてどんな反応をくれますか?

柴田:全てを受け入れてくれます、母のように。たまぁに「あの歌詞すごい好きなんだよね」とか言ってくれて、え!?そうだったんだ!もっと早く言えよ!とかあるんですけどね(笑)。まぁ信頼してくれていると思います。あとよく「こういうのは柴ちゃんしか書けないからね」みたいなことも言ってくれるんですよ。だからやっぱり梅津くんが期待しているのは、俺にしか言えないことを言ってほしいってことなんじゃないかなぁ。俺は、結構暗いし、人から虐げられていると思っているし、とくに恋愛においては、まっ…たくうまくいかない無能なので。

photo_01です。

でもライブで柴田さんの姿を観ていると、めちゃくちゃアツくてカッコイイですし、モテそうですけど…。

柴田:いや、マジで無能なんですよ。その実績をそうとう積んできていますから(笑)。35歳にして恋人が1回しかいたことがありませんっていうのもそうだし…。しかもそこからずーっと、本ッ当に、一切うまくいかない、受け入れられないっていうのを経験しているんですよね。でも、そういう人間にしかわからない感情って絶対にあるじゃないですか。もう、無能な人間であることが俺の武器だと思うから、そこは強みとして忘れずにやっていきたいですね。

では、柴田さんが歌詞が良いと思うアーティストを教えてください。

柴田:やっぱりミスチルとエレカシかな。俺はわりと理屈っぽい歌詞が好きで、ミスチルも理屈っぽいじゃないですか。でも理屈だけじゃないんだよなぁ…。まず、桜井さんは大体どの曲でも最初に「こういう気持ちでいるでしょう」って問い掛けてくれるんですけど、その精度と深さがハンパないんですよ。しかも桜井さんがすごいのは、そこから先の解決策もちゃんと教えてくれるところなんです。こうしたらいいよって。ものすごく美しい例えで、その希望を提示してくれるんですよ。そこが素敵すぎる。

ミスチルですと、とくにお気に入りはどの曲ですか?

柴田:今は「GIFT」って曲が猛烈に好き。<『本当の自分』を見つけたいって言うけど>…あぁダメだ泣きそうになる(笑)。まず<「白か黒で答えろ」という 難題を突きつけられ ぶち当たった壁の前で 僕らはまた迷っている>って問いかけをくれるじゃないですか。はい!そうです!って感じですよね。でもそのあとの<白と黒のその間に 無限の色が広がってる>というフレーズがまた美しい…。からの<君に似合う色探して やさしい名前をつけたなら ほら 一番きれいな色を今 君に贈るよ>…何これ。神じゃんって。

もう、黄金比のような歌詞ですよね。

柴田:マジで黄金比。あと「箒星」も素晴らしいし「くるみ」も大好き。自分を理解してもらえて本当に救われるし、「それならこっちにいけばいいんだよ」って、とっても美しい“こっち”にやさしく連れてってくれるんですよね。ミスチルの歌詞は人を変える力を持っていると思います。でも、桜井さんには敵わないとかは言いたくないんだよなぁ。目標ですね。自分もそういうものを作りたい。一方で、エレカシの歌詞も大好きなんですけど、宮本さんはそんなに理屈を使わない気がするんですよね。ただひとこと「頑張れ!」って言ってるんですよ。さあがんばろう~ぜ~♪って(笑)。

たしかに…。

柴田:けど、桜井さんの歌と同じレベルで「頑張ろう!」って気持ちになるわけですよ。そこはやっぱり、宮本さんの誠実さとか生きてきた歴史とか、人間性を含めての表現というか。宮本さんって絶対に嘘を吐かない人だと思います。だからこそ、あんまり何もかもうまくやれているわけじゃない気がするんですよね。日常で苦しんでいる瞬間もあると思う。それでも<さあがんばろうぜ>って歌っている美しさとか説得力にすごく感動するんじゃないかな。「わかりました!宮本さんが頑張ってるんだったら、俺みたいなもんも頑張ります!」って。そういう真っ直ぐなタイプの歌も大好きです。だから桜井さんと宮本さんは俺にとっての二大巨頭だと思いますね。

“忘れらんねえよ”のこれからの夢はなんでしょうか。

柴田:夢かぁ…。一ヶ月単位で変わるんですけど、今はやっぱりこの「いいひとどまり」で本当に感動したって人がめっちゃいっぱい出てきてくれたらもう、たまんないっす。自分じゃ信じられないくらいのたくさんの人に届いたらめっちゃ嬉しい。それが今の夢ですかね。その結果、武道館とかバンドを始めたときから抱いているような夢が叶ってくれたらいいな。それで、あとあと振り返ってみたときに「いいひとどまり」が転換期だったんだなぁって思いたいですね。

ありがとうございました。最後に、歌ネットを見ている方にメッセージをお願いします!

柴田:このサイトを見ている人は、やっぱり歌詞を大切にしているんだと思うから、忘れらんねえよを検索してくれているとしたら「いいひとどまり」を一番に読んでほしいかな。歌詞だけでも成立していると思うんですよ。だから、物語を読むように楽しんでみてください!


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