LIVE REPORT

GLIM SPANKY ライヴレポート

GLIM SPANKY ライヴレポート

【GLIM SPANKY ライヴレポート】 『GLIM SPANKY 野音ライブ 2022』 2022年5月28日 at 日比谷公園野外大音楽堂

2022年05月28日@

撮影:上飯坂一/取材:竹内美保

2022.06.02

そこはまさにオアシスのような体感が得られる時空間だった。殺伐や憂鬱に苛まれる日々が続く中、潤いと安らぎ、そして細胞が瑞々しいまでに活性化する“正”のエナジーを、この日のライヴでプレゼントしてくれたGLIM SPANKY。そう。ふたりが歌い奏でる音楽は、あなたや私や、どこかに存在する誰かの味方だと改めて深く感じるひと時だったのだ。松尾レミ(Vo&Gu)がライヴのMCで必ずと言っていいほど口にする“仲間”という表現が、よりやさしい強さに包まれていたのは、だぶんその表れだったのではないだろうか。

オープニングナンバーに「アイスタンドアローン」が選ばれていたところから、すでにそれは限りなく確信に近い予感としてあった。日比谷野音から広がる地球全体を隆起させるようなバスドラのビートから始まる重厚なサウンド。《尖り抜いた孤高の旗を振れ》と言葉の拳で魂を鼓舞する、赤×黒のドレッシーな衣装に身を包んだ松尾の歌声。不自由から解き放ってくれるこのナンバーから心の大合唱が官公庁街に轟いていく「Singin' Now」、オーディエンスのハンドクラップが曲の密度を高める「褒めろよ」と続けば、予感は揺るぎない確信に変わる。

4曲目は60'sの香り漂う「The Trip」。サイケデリックでありながら洗練された亀本寛貴(Gu)のギタープレイ、松尾が歌う緩やかな旋律がウッドストックやモントレー、ハイドパークへと連れていく。それはノスタルジーなどではなく、今、リアルに浮かび上がる風景へと。そして、まだ陽が差す野外で披露されることで、歌詞が内包する意味がまた新たな角度で伝わってきた「闇に目を凝らせば」。コロナ禍の真っ只中に生まれた、GLIM SPANKY流ジャズ/ロックチューン「こんな夜更けは」の2曲では、じんわりとじっくりと滋味ある世界が繊細に奏でられていく。続く「Up To Me」ではメッセージに込められた“女性の強さ。人間の魂”の生々しい昂りが、シンメトリーのカーテンに映える赤いライトと美しくシンクロする。

“ロックミュージックの看板背負って頑張りたいっていう気持ちがあります”との亀本の頼もしい言葉などを挟んでライヴは中盤へ。スケール感のあるブルージーなサウンド、強くしなやかなヴォーカル、カオティックなインタルードがバンドがよりタフになっていることを感じさせる「ハートが冷める前に」。シンプルな構成だからこそストーリーテラーとしての松尾の魅力が浮き彫りになる「grand port」。そして、ゴスペルライクなコーラスで幕を開ける「Freeder」では、楽曲の持つ純度の高さがさらに昇華され、まるで切り出された水晶のような輝きを放った。

“野音でやったら気持ち良いなと思って持ってきた曲です”と松尾が紹介した11曲目「All Of Us」。ドラマチックなサウンドと、ささやかだけれど大切な願いや祈りがポップなメロディーと寄り添い、心地良い風に乗って届けられてくる。“魔物”も浄化されていくような、そんな温かな肌触りを感じた。...と思いきや、その空気を斬り裂いていく亀本のギターソロが鳴らされ、12曲目となる「愚か者たち」では松尾のやさぐれ感漂う歌唱が炸裂。そして、GLIM SPANKYのダークサイドが表れたガレージロックナンバー「E.V.I.」、煽るようなライティングとアグレッシブな音と言葉と歌唱の相乗効果が生み出す熱量の高さが凄まじい「怒りをくれよ」を畳みかけてくれば、オーディエンスのボルテージは最高潮に。“他人の怒りを奪うな”という言葉があるが、怒りをモチベーションにしたアクションで新たな道が、世界が、未来が開かれていくことだって多々ある。ここで鳴らされた「怒りをくれよ」は、この楽曲が極めて真っ当でポジティブな楽曲であることを改めて説明していたのではないだろうか。

ニューアルバム『Into The Time Hole』のリリースと今年後半の全国ツアーが決定した嬉しいニュースを発表し、ライヴは終盤へ。スポットに照らされた松尾のブレスから弾き語りで入り、まったりさと絶妙な枯れ具合は普遍的でありながらも真芯がより逞しくなっていた「大人になったら」。《私たちはやる事があって/ここで唄ってる》というフレーズが、GLIM SPANKYの恒久的なテーマがシンプルに凝縮された言葉であることに、また今日も重ねて気づかされる。本編ラストは「Circle Of Time」。もともと広がりと奥行きを兼ね備えたサイケデリックロックチューンだが、野外であることも作用してさらにダイナミックかつディープな音世界に。野音のステージから大きな鳥が無限の宇宙へと羽ばたいていくようなイメージも感じられた。こういう荘厳さを湛えた楽曲を決して過剰にならず、真っ直ぐに披露できるところに松尾と亀本のセンスの良さと風格がよく表れている。

アンコールでは3曲をプレイ。1曲目はさまざまなアーティストにカバーされてきた「ウイスキーが、お好きでしょ」のGLIM SPANKYバージョン(オリジナルは石川さゆり)。ムーディでメロウ、かつスタイリッシュなアレンジメントに、丁寧に語りかけるようなヴォーカルがブレンドされ、なんとも味わい深い。まるでそれはオーク種の香りが漂ってくるような...。2曲目は野音で初お披露目となる新曲「形ないもの」。愛おしい存在がたくさん詰まった、やさしい眼差しの歌詞。マーチングドラムがフックとなった、ブリティッシュロック/ポップの進化形と言えるサウンド。数時間後にドロップされた音源よりはやや軽快な印象なのはライヴならではだろう。そしてオーラス、痛快かつ爽快なロックンロールチューンの「ワイルド・サイドを行け」。バンドがぶち上げていく音の連鎖、荒々しくはあるが言葉を決して歪めない歌声、手も足も首もちぎれんばかりに踊るオーディエンス。なぜかラストナンバーなのに“また始まる”感に満ちあふれている空気感。そうだ、《仲間とこじ開ける未来は絶景》だった。だから、“ここからまた始まるんだ、始めるんだ”というメッセージが投げかけられた気がしたのかもしれない。

“今日はみなさんからもパワーをもらいに来ました”ーーMCでとても印象的だった松尾のこのひと言。それはGLIM SPANKYの“LOVE, PEACE & HOPE”に満ちたロックンロール/ポップミュージックからパワーをもらえるからこそ、オーディエンスもお返しできるもの。果たして...いや、ちゃんとお返しできていたはず! それはこのライヴの素晴らしい余韻が何よりもの証だろう。

撮影:上飯坂一/取材:竹内美保

GLIM SPANKY

グリム・スパンキー:2007年、長野県内の高校にて結成。14年6月にミニアルバム『焦燥』でメジャーデビュー。60〜70年代のロックとブルースを基調にしながらも瑞々しい感性と豊かな表現力で新しい時代を感じさせるサウンドを鳴らす。また、アートや文学やファッション等、ロックはカルチャーとともにあることを提示。18年5月には初の日本武道館でのワンマンライヴを成功させた。