このコーナーでは、当時のランキングやエピソードと共に、「ザ・ベストテン」に出演した歌手のヒット曲を紹介していきます。第44回は1988年9月22日のランキングを紹介。
今月のスポットライトは、おニャン子クラブの後期を盛り上げた人気メンバーの一人で、その後ソロアーティストとして様々なヒット曲を生んだ工藤静香の代表曲「MUGO・ん…色っぽい」を取り上げます。
おニャン子クラブ解散前、最後のソロ歌手 中島みゆき作詞で本格路線に
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 1985年4月1日、フジテレビでバラエティー番組「夕やけニャンニャン」がスタート。片岡鶴太郎、吉田照美、田代まさしらが司会を務め、とんねるずの悪ノリが大ウケし、バカバカしくも楽しいコーナーの数々で人気を博した。これに出演していたのが、10代の女の子で構成された「おニャン子クラブ」である。徐々にネット局が増え、日本中の中高生が、月~金の夕方5時から始まるこの生番組に熱中した。

 おニャン子クラブは85年7月に「セーラー服を脱がさないで」でレコードデビュー。メンバーの舌足らずな声で歌われるキワどいフレーズに、男子たちはドキドキした。ザ・ベストテンでも最高5位を記録するヒットに。河合その子、吉沢秋絵、新田恵利、国生さゆり、城之内早苗、ユニット・うしろゆびさされ組などが続々とデビューし、毎週のようにおニャン子関連楽曲がランキング上位を席巻、まさに社会現象となった。それまでアイドルとは、抜群の歌唱力やルックスを備えた、手の届かない存在だった。しかし、歌もダンスもお世辞にも上手いとは言えない素人っぽさこそが魅力のおニャン子がブレイクしたことにより、その定義は崩れ、アイドルはよくも悪くも身近な存在になっていく。

 工藤静香は86年5月、16歳の時、まさに人気絶頂期だったおニャン子に加入した。会員番号は38番。もともと3人組アイドル「セブンティーンクラブ」として活動していたがまったく売れず解散。その後、「夕やけニャンニャン」内で毎週行われていた新メンバーオーディション「ザ・スカウト アイドルを探せ!」に出演し合格したのだった。87年5月には生稲晃子、斉藤満喜子と共に新ユニット「うしろ髪ひかれ隊」を結成し「時の河を越えて」でデビュー。しかし程なく87年6月におニャン子クラブは解散を発表する(9月20日、代々木第一体育館で行ったコンサートで解散)。グループ内で着実に人気上昇中だった工藤は「禁断のテレパシー」でソロデビュー。その発売日は奇しくも「夕やけニャンニャン」最終回の87年8月31日だった。ザ・ベストテンでは最高2位を記録。以後はソロ活動に力を入れ、おニャン子に頼らない人気を確実なものに。一方で「うしろ髪」の活動は1年ほどでフェードアウトしてしまう。

 工藤の4枚目のシングル「FU-JI-TSU」は、彼女がずっとファンだったという中島みゆきが作詞を担当。本格的アーティスト志向がより明確になっていく。続く5枚目「MUGO・ん…色っぽい」も中島みゆきが作詞。カネボウ化粧品のキャンペーンソングで、CMには当時18歳の工藤自身が出演した。曲タイトルは、CMのキャッチコピー「ん、色っぽい」を取り入れたもの。大人っぽい歌詞だが、「かすかに」と歌った後の、鼻にかかった「♪んー」のフレーズに彼女らしい可愛さが出ている。歌唱時は、間奏でマイクの上で手のひらを下に向けてかざし(まるでマイクに声が入るのを遮るように)、工藤が口パクで何かをしゃべる…というのが常で、何を言っているのか?と視聴者の興味を引いた。しかし特に決まった台詞があったわけではなく、毎回その時に心に浮かんだ適当なことを言っていただけで、深い意味はなかったらしい。

 ザ・ベストテンには7位で初登場。この曲で自身初の1位になった後、いったん2位に下がったが、再び1位に返り咲くという粘りを見せた。88年12月29日、年内最後の番組で発表された年間ランキングでは6位に。この時、スタジオに出演した工藤にお祝いの電話が…。その相手はなんと、中島みゆきだった。工藤は恐縮しながらお礼の言葉を伝えていた。黒柳徹子に工藤の歌の印象を聞かれた中島は「作った私のイメージを全然気にしなくて『私が工藤だ!』という個性がすごく出ていて尊敬しました」とうれしそうにベタ褒め。この曲で、工藤はおニャン子出身者として初めてNHK紅白歌合戦にも出場した。中島みゆきは、以後も「黄砂に吹かれて」「慟哭」「激情」など多数の作品を工藤に提供。また工藤自身も「愛絵理」のペンネームで作詞した曲を発表するようになり、女性ファンからも広く支持を集めた。

 工藤静香は前述の作詞の他、絵画の才能も発揮し、二科展に何度も入賞。SMAPのメンバーだった木村拓哉と2000年に結婚。現在もディナーショーなどで歌手活動を行っている。2018年には次女のKoki,(コウキ)がモデルデビューするなど、再び注目されている。

ザ・ベストテン☆エピソード
 工藤静香は4曲で1位に輝いており、「歌手別・1位獲得週数ランキング」では9位(14週)。「MUGO・ん…色っぽい」「恋一夜」「嵐の素顔」、そして89年9月28日放送の「ザ・ベストテン」最終回、この番組最後の1位が、工藤の「黄砂に吹かれて」でした。前週まで光GENJIの「太陽がいっぱい」が7週連続(!)で1位をキープしており、まさに駆け込みの1位でした。
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