このコーナーでは、当時のランキングやエピソードと共に、「ザ・ベストテン」に出演した歌手のヒット曲を紹介していきます。第40回は1978年2月8日のランキングを紹介。
今月のスポットライトは、谷村新司と堀内孝雄のツインボーカルで人気を博したグループ、
アリスの最大のヒット曲「チャンピオン」を取り上げます。
敗れゆくボクサーの魂の叫び 初の第1位を獲得した代表曲
spot_photoです。

 谷村新司(愛称:チンペイ)、堀内孝雄(べーやん)、矢沢透(キンちゃん)の3人によるアリス。1972年3月に「走っておいで恋人よ」でデビュー。当初は全国をくまなく回りながら、地道なライブ活動を続けた。その間、谷村が文化放送や毎日放送でレギュラーを務めたラジオ番組や、75年に「今はもうだれも」がスマッシュヒットしたことを契機に徐々にファンを増やす。77年10月に発売した「冬の稲妻」が大ヒットし、初めてオリコンのベスト10入りを果たした。翌78年2月には「ザ・ベストテン」に初出演、最高5位を記録。「涙の誓い」「ジョニーの子守唄」もランクイン。既にコンサートツアーで各地を忙しく飛び回っており、ベストテンには生出演せず、各地のコンサート会場で事前に録画したVTRが流れることも多かった。78年夏には日本武道館3DAYS公演を成功させるなど、ニューミュージック界で絶大な人気を獲得していた。

 そんな中、78年12月に発売したのが14枚目のシングル「チャンピオン」である。「冬の稲妻」以来、アップテンポのシングルを発表してヒットを続けていたアリスだが、「チャンピオン」はさらにスピード感を増したロック調に。凄みをきかせた谷村・堀内のボーカル、重なるハーモニー、そしてライブでさらに加速する矢沢のドラムなど、アリスの魅力が詰まった一曲と言える。

 歌詞は、ボクシングのチャンピオンが防衛戦に臨み、若い挑戦者に敗れ去っていく悲哀を描いたもの。実はこの歌にはモデルが存在する。それは71年に東洋ミドル級チャンピオンになったカシアス内藤。実績を出せなくなり一旦は試合から遠ざかるが、78年に復帰している。当時その姿に感動した谷村が曲作りのモチーフにしたのであった。

 「ザ・ベストテン」では79年2月から3月にかけて4週連続1位を獲得。アリス最大のヒット曲になり、その人気を決定的なものにした。14週ランクインしたうち、TBSのスタジオで歌ったのは4週だけ。アリスのロゴマーク(三つの頭を持つペガサス)を飾ったものの他、ステージをボクシングのリングに見立て、ロープを張る代わりに、当時まだ目新しかったレーザー光線を使って四角く囲むなど、革新的な演出もあった。

 当時、テレビ番組への出演を拒んでいたニューミュージック系歌手も多かった中、アリスは番組に対し紳士的であったという。ザ・ベストテンのプロデューサーを務めた山田修爾氏は「アリスが出演してくれたおかげで、この番組は当時の若者から市民権を得られた」と著書で語っている。本番前、谷村は特に念入りに下見し、スタジオセットについても確認していたという。出演交渉には簡単に折れない一方、出演できない時はその旨必ず連絡が入ったそうだ。

 「チャンピオン」がヒットしていた当時から、既に谷村と堀内はアリスと並行してソロ活動を行っており、堀内は「君のひとみは10000ボルト」をヒットさせ、谷村新司は山口百恵に「いい日旅立ち」を提供するなど、才能を発揮していた。その後、アリスは「夢去りし街角」「秋止符」「狂った果実」をランクインさせたが、81年11月7日の後楽園球場コンサートをもって活動停止している。その後、谷村、堀内はそれぞれソロ歌手として活躍。コンサートではアリス時代の曲も披露している。矢沢は串焼き店を経営する実業家となる一方、音楽活動も継続。

 アリスとしては単発的な活動再開が何度か行われた後、2009年に本格的に再始動し、全国ツアーを開催。2013年にも47都道府県を回る全国ツアーが実施された。そして、メンバー3人が70歳となる2019年にも“再始動”することを明らかにしている。コンサートのクライマックスで「チャンピオン」が演奏され、会場中のファンが立ち上がって拳を振り上げる光景がまた見られるに違いない。

ザ・ベストテン☆エピソード
 曲に合わせ趣向を凝らしたスタジオセットがこの番組の名物。「チャンピオン」がランクインしたある時のセットは、後ろに巨大な顔=デスマスクを飾ったものでした。リハーサル時にそれを見た谷村新司は、担当ディレクターに「どういう意味合いでこのセットにしたのですか?」といぶかしげに尋ねます。「負けていくチャンピオンの哀しみをデスマスクで表現したのです」という説明に、谷村は「こういうイメージじゃないんですよね…」と最後まで納得がいかない様子だったそうです。照明を暗めにし、目立たないようにすることで話はついたものの、やや暗い中、本番で目を光らせたそれは、不気味なモアイ像のようでした。
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