このコーナーでは、当時のランキングやエピソードと共に、「ザ・ベストテン」に出演した歌手のヒット曲を紹介していきます。第37回は1984年2月2日のランキングを紹介。
今月のスポットライトは、抜群のスタイルとルックスで10代の頃から注目され、伸びやかなボーカルで数々のヒット曲を生み出した杏里の「悲しみがとまらない」を取り上げます。
友人が恋人を略奪!? 悲劇的な内容ながらポップな曲調でヒット
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 幼い頃から音楽に親しみ、高校時代にはモデルとしての仕事を始めていた杏里。1978年11月、17歳の時に「オリビアを聴きながら」で歌手デビューした。「オリビア」とは、「そよ風の誘惑」などの大ヒットで知られるオリビア・ニュートン=ジョンのこと。杏里が好きな歌手として名前を挙げたことから、作詞・作曲を手がけた尾崎亜美がモチーフにしたものだった。デビュー曲ながらバラード、しかも失恋の歌。大きなヒットにはならなかったもののロングヒットし、今も多くの人に歌い継がれるスタンダード・ナンバーとなった。

 82年には、自身が出演もしたCMで流れた「思いきりアメリカン」が爽やかな曲調でヒット。その後、シンガー・ソングライターの角松敏生などから作品提供を受け、海辺やサーファーをテーマにした楽曲をアルバムで打ち出し、夏のイメージが定着していく。しかしなかなかシングルヒットが出せずにいた。

 そんな時、83年7月放送開始のアニメ「キャッツ・アイ」の主題歌を歌うことに。しかし当の杏里本人は、レコーディング直前まで何を歌うか把握しておらず、アニメ主題歌ということを知らされて、強いショックを受けたという。ゴダイゴが「銀河鉄道999」をヒットさせた例はあったものの、まだテレビアニメは「子ども向け」であり、主題歌は専門の歌手や声優が歌うのが当たり前だった時代である。それまで取り組んでいた方向性とは大きく異なる曲を歌わされることに抵抗を覚えたのも無理はなかっただろう。その曲「CAT'S EYE」は8月に発売され、9月15日にザ・ベストテンに第7位で初登場。中森明菜「禁区」に阻まれ、6週続けて2位に甘んじたものの、11月10日についに第1位に。オリコンでも5週連続1位を記録する大ヒットになった。またこの年のNHK紅白歌合戦にもこの曲で初出場。最初は歌うことに不本意だった杏里だが、幅広い世代に自分を知ってもらった重要な作品に。

 しかしこのヒットに甘んじることなく、杏里とスタッフは角松敏生をプロデューサーとして正式に迎え、次の作品づくりを進めていた。角松は、より広い層に受け入れられるヒット曲を目指し、あえて自分で曲を書くことはせず、当時注目され始めていた林哲司と康珍化に依頼。そうして生まれたのが「悲しみがとまらない」である。「CAT'S EYE」の次の作品ということで角松はプレッシャーを感じたそうだが、詞や曲の方向性を指示し、出来上がったものを自分がアレンジするというプロデュース業に徹した。詞の内容は、友人の女性に彼氏を奪われてしまい、友情も恋も失うという、かなり悲劇的なもの。しかし明るいアップテンポの曲調にのせ、杏里のボーカルで伸びやかに歌い上げており、悲壮感はない。モータウン系のサウンド、ストリングス、ホーンセクションが融合し、洗練されたポップスに仕上がっている。

 ザ・ベストテンでは84年1月5日に初ランクインし、2月2日に最高4位を記録、9週間ランクイン。「CAT'S EYE」のイメージを引きずることなく、方向性を再修正したうえでヒットさせ、こちらも杏里の代表曲になったのである。

 やがて杏里は、本格的に自分で詞や曲を手掛けた作品をリリースするようになり、「SUMMER CANDLES」「スノーフレイクの街角」「ドルフィン・リング」、長野オリンピック公式テーマソングになった「SHARE 瞳の中のヒーロー」など、普遍的な愛を歌った作品をヒットさせていく。現在は米国ロサンゼルスに在住し、日本と行き来しながらリリースやコンサート活動を続けている。

 実は「悲しみがとまらない」には、続編が存在する。デビュー30周年を記念し、2008年に発表された「もう悲しくない~No More Loneliness」で、杏里が作詞・作曲したもの。「悲しみが~」と同じ男女と思われる2人が再会し、悲しい出来事を乗り越えて幸せになるハッピーエンドとなっている。

ザ・ベストテン☆エピソード
 「悲しみがとまらない」がランクインしたある時、スタジオセットには演出の一環としてチンパンジーの子どもが登場。おとなしく座っていましたが、そばで立って歌っている杏里の太ももを、右手で軽くポンと1回タッチ。これがツボに入ったのか、杏里は笑いが止まらなくなり、まともに歌えなくなってしまいました。しかし可愛さが好意的に受け止められ、このチンパンジーはこの後何度かレギュラーのように出演し、杏里と共演しています。
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