このコーナーでは、当時のランキングやエピソードと共に、「ザ・ベストテン」に出演した歌手のヒット曲を紹介していきます。第23回は1981年11月5日のランキングを紹介。
今月のスポットライトは、80年代を代表する男性アイドルの一人であり、今や芸能界で確固たる地位を築き、ジャニーズの後輩たちから慕われている近藤真彦の「ギンギラギンにさりげなく」を取り上げます。
マッチの生き方を象徴!? 紅白で2度歌われた代表曲
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 ドラマ『3年B組金八先生』の生徒役として出演していた田原俊彦、野村義男、そして近藤真彦。3人は「たのきんトリオ」として活躍し、爆発的な人気に。「マッチ」の愛称で親しまれた近藤は80年12月に歌手デビューを果たす。デビュー曲「スニーカーぶるーす」は12月25日、「ザ・ベストテン」に第3位で初登場。当時16歳。年明け1月15日には早くも自身初の第1位を達成した。この日はスタジオにファン約500人が集められ、熱狂的な声援を直に浴びながら歌った。歌い終わるとその中へダイブし、もみくちゃに。これは打ち合わせナシにやったのではなく、彼のやんちゃな性格を表現するためにディレクターが考えた演出だった。それ以降も、彼の不良っぽいイメージに合った、キャッチーでインパクトのある歌を次々にリリースしてヒットさせていく。

 「ギンギラギンにさりげなく」は4枚目のシングル。初登場から4週目の11月5日には第1位に上り詰めた。この日は中継で、東京・有楽町のビルの壁面に吊り下げられた窓掃除用のゴンドラに乗り、紙吹雪が舞う中で歌うというド派手な演出で視聴者を驚かせる。地上数十メートル、揺れる小さなゴンドラは普通の人であれば足がすくみそうだが、マッチは怖がる素振りも見せずに楽しそうに歌っていた。その後も1位をキープし続け、同じ年に大ヒットした寺尾聰「ルビーの指環」の持つ連続12週第1位の記録には及ばなかったものの、9週連続で第1位を達成。この年、同曲で日本レコード大賞の最優秀新人賞を受賞、さらにNHK紅白歌合戦に初出場した。

 毎週、スタッフと本人を交えた雑談の中から演出のアイデアが生まれ、視聴者をアッと言わせる斬新な演出の数々が生まれた。「ヨコハマ・チーク」では、海上を走る中型モーターボートの上から中継で歌唱。歌い終わるとマイクを置き、カメラに笑顔を向けた次の瞬間、ためらうことなく夜の海へザブン! 救命胴衣は身につけていたものの、司会の黒柳徹子は「下が岩場だったらどうするの!」と本気でスタッフに怒ったという。「ハイティーン・ブギ」では、同名の主演映画の内容さながらに、スタジオでバイクにまたがったり、泥まみれで格闘したりと毎回凝った演出が話題に。「ホレたぜ乾杯!」では、オープンカーで表参道を走りながら中継で歌唱。しかしノロノロ運転だったため後続の車がつかえ、大渋滞になる騒ぎに。面白くインパクトのある番組にしようと、時にエスカレートするスタッフの演出も、マッチ自身は積極的に協力して楽しんでいたようだ。

 マッチにとって最大のハプニングとして知られるのが、「真夏の一秒」がランクインした時の事件。火事の中から助けを求める少女をマッチが救い出す、というストーリー仕立ての演出で歌うことに。スタッフは臨場感を出すため、マッチの額から汗がしたたり落ちるように見せる仕掛けを準備。穴を開けた細いチューブを目立たぬよう頭に巻き付け、水を送るというものだった。ところが本番では水の勢いが強すぎ、髪の間から明らかに不自然に水が噴き出してしまう。異変に気が付き、頭部を隠すように手で抑えながら歌い切ったマッチ。しかし番組途中にもかかわらず帰ると言い出してしまう。青くなったディレクターが追いかけて呼び止めると、彼は目に涙をためて「僕、あんなに恥ずかしい思いをしたことはありません!」。ディレクターは必死で謝罪し、スタジオに戻ってもらったという。今となっては笑い話だが、生放送でカッコ悪い姿をさらされ、いたく傷付いたことであろう。

 ベストテン終了までの近藤真彦のランクイン総週数は211週(歌手別第4位)。計28曲をランクインさせ、うち第1位獲得曲数は13曲、第1位獲得週数は40週と、番組への貢献度は極めて高い。トーク中に「なんで俺が1位じゃないの?」と軽口を叩いたり、他の歌手に対してストレートな物言いをしたりしたことも多い。しかし、それは彼の純粋さゆえのものだと、司会の黒柳徹子をはじめとする番組スタッフは知っていた。やんちゃだが、人懐こくてどこか憎めない彼だからこそ、多くのスタッフに愛され、番組に欠かせない存在になっていったのだろう。何かと気にかけてくれた黒柳を、マッチは今も「芸能界のお母さん」と呼んで慕っているという。

 2015年、マッチは紅白歌合戦に19年ぶりに出場。白組トリで歌ったのは「ギンギラギンにさりげなく」だった。その歌詞の通り、まさに彼のカッコよさや生き方を象徴する一曲なのである。

ザ・ベストテン☆エピソード
 オープンカーの後部座席に歌手が乗り、道路を走りながら歌うという中継は何度か行われました。
近藤真彦が表参道でオープンカーに乗って歌ったのは82年末と83年末。他にも岡田有希子が首都高を走るオープンカーから歌った他、珍しいところでは、武田鉄矢と芦川よしみ「男と女のはしご酒」も
六本木の道路上から中継。しかし道路使用許可の申請をせずに無許可でゲリラ中継したことも多かったようで、渋滞が起きたり、沿道にファンが詰めかけたりと大騒ぎに。番組スタッフはその度に警察から呼び出されて厳重注意されたそうです。
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