このコーナーでは、当時のランキングやエピソードと共に、「ザ・ベストテン」に出演した歌手のヒット曲を紹介していきます。第16回は1986年2月20日のランキングを紹介。今月のスポットライトは、1位獲得週数が驚異の69週、番組史上トップの記録を残した中森明菜さんの代表作「DESIRE」を取り上げます。
和風衣装とダイナミックな振り付けが、究極のカッコよさを演出
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 「スター誕生」で合格し、決戦大会でスカウトを経て芸能界入りした中森明菜は、1982年5月「スローモーション」でデビュー。歌が大好きな彼女は「ザ・ベストテン」を毎週欠かさず見るほどの大ファンだったという。初ランクインは「少女A」、そして3rdシングル「セカンド・ラブ」が8週連続1位になり、名実ともに人気歌手に。その後「禁区」「北ウイング」「十戒」「飾りじゃないのよ涙は」など、10代でありながら大人びた表情と歌の表現力で次々に大ヒットを生み出していく。そんな数々のヒット曲の中でも、ビジュアルと歌が最も密接に結びついて人々の記憶に焼き付いたであろう一曲が、14枚目のシングル 「DESIRE」だ。

 「DESIRE」が発売された86年2月は、前年暮れに「ミ・アモーレ」で日本レコード大賞を受賞し、20歳で歌謡界の頂点に立ってから2カ月後。「ザ・ベストテン」には2月20日、1位で初登場。前週33位からいきなりジャンプアップしての1位で、これほど急上昇して1位になったケースは前例がなかった。この日ミラーゲートから現れた明菜を見て、司会の黒柳徹子は驚きのあまり言葉を失う。「一瞬どなたか分からなかった…」。それまで見慣れた明菜とは、あまりにビジュアルが異なっていたからだ。日本人形を思わせるようなおかっぱ(ボブ)のウィッグ、着物をアレンジしたような和洋折衷の衣装、ロングブーツ、首からは金色の大きなアクセサリー、右手には黒い手袋。インパクトはあるが決して派手すぎず、色調も落ち着いたものだった。着物が好きだった明菜自身の意向でレコードジャケットは正統派の着物姿で撮影しており、ならばいっそのこと歌う時も和装でいきたいという彼女の創意工夫が形になったものだという。彼女は衣装などのビジュアル面、振り付け、楽曲についてデビュー当時から積極的にアイデアを出しており、自分をいかに見せるか、セルフプロデュース能力に長けていたと言える。

 ミステリアスな表情で静かに語るようなAメロに対し、サビで炸裂する伸びやかな声。そして、全身を使ったダイナミックな振り付け。これらが見事に調和した激しいサウンドは、否応なしにカッコよさを感じさせた。ちなみに「DESIRE」のレコードジャケット裏面のライナーノーツには、片隅に「※このレコードは可能な限り大音量でお聴き下さい」という一文が添えられており、遊び心がうかがえる。
「ザ・ベストテン」でのスタジオセットも、桜の木や扇、能面など、和のモチーフのものが多く登場した。また1位のお祝いとして、華道家が桜を生けたものがスタジオに登場したことも。

 「DESIRE」は、4月3日まで7週連続1位に。さらにこの曲で、前年の「ミ・アモーレ」に続き、2年連続となる日本レコード大賞を受賞した。明菜が「ザ・ベストテン」の番組終了までにランクインさせたのは22曲、そのうち1位獲得曲は実に17曲。1位獲得週数は69週で、番組史上堂々の1位である。
そんな「ザ・ベストテン」を、明菜はデビューする前とは違った意味で愛し続けた。それは、様々なアイデアで曲の世界に相応しいスタジオセットを作り、カメラワークや照明にこだわって歌手の魅力を引き出そうとする現場スタッフの本気にふれたからであった。それに応えるために全力で立ち向かう、明菜にとって毎回が真剣勝負の場だったのである。

 2010年以降、体調を崩したために表立った活動をしていなかったが、2014年末の「NHK紅白歌合戦」で、ニューヨークからの中継という形で久々に歌い話題に。2016年12月には、全国7都市でディナーショーを開催することも発表。実に7年ぶりにファンの前で歌うことになっている。

ザ・ベストテン☆エピソード
 1位になった歌手のために、お祝いとして天井から吊るされて登場したのが「くす玉」。
当初は司会者がヒモを引いていましたが、やがて1位になった歌手本人(あるいはその場にいた別の歌手)が引く形に。最もスタンダードなのは金色のくす玉でした。中森明菜「DESIRE」が1位になった時には、千代紙が周りに貼られ、割ると折り鶴が出てくる和風くす玉も。また明菜が当時のベストテン史上トップとなる44回目の1位獲得を決めた時(86年3月27日)には「44連発くす玉」が登場。ひもを引くと、ズラリと並んだ44個の白く小さなくす玉が次々と割れ、中の垂れ幕には、それぞれ1位獲得曲のタイトルと日付が記されていました。
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